第1話――『俺』は殺された
【目覚めよ……目覚めよ……】
誰かが頭の中で呼びかけてくる。
新手の新興宗教の勧誘か? うるさいな、ゆっくり寝かせといてくれよ……どうせ俺は死んだんだから。
俺は小さな町工場で働く、しがないおっさんだった。
ちょうど脱原発に向けクリーンエネルギーが叫ばれていた頃、俺の住む町を囲む山を切り崩して禿山になったところ一面にソーラーパネルが設置された。周辺住民からはかなり反発があったんだが、知事は陳情を全て「問題ない」と切り捨て強行。結果、連日の雨で土砂崩れが起き、それに巻き込まれた。
俺は、太陽光発電に殺されたんだ――
【目覚めよ……目覚めよ……】
まあ俺の死因はさておき、脳内に語りかけてくる声がうっさいので、いい加減に目を覚ます事にする。と言うか、死後の世界っていちいち自分で起きなきゃダメなのか?
瞼を押し上げると、俺は洋館の一室を思わせる部屋のベッドで寝かされていた。既に夜が明けていたのか、カーテンの隙間から差し込む陽の光が眩しい……ってここ、天国じゃないのか?
「って……!」
起き上がろうとして、ズキンと痛んだ頭を押さえる。額には包帯を巻かれていたが、怪我でもしたんだろうか。俺は土砂に流されて生き埋めになったけど、頭に怪我はなかったよな?
(それより、なんだこの格好??)
気付けば女が着るようなネグリジェを着せられていた。しかも薄い生地なのでスッケスケだ。正直、おっさんにこの格好はかなりきっついと言うか痛い。が、太かった手足は白くほっそりしていて、まるで本当に女になってしまったような……まるでと言うか。
「え? 俺、女になってる!?」
自分の体をあちこちペタペタ触って確かめた結果、どうやらガチのようだ。しかも中年太りでブヨブヨ腹が出ているのではなく、腰もキュッとしていて割とスタイルがいい。肌から見ても相当若そうだが……
ベッドから下り、部屋の隅に置いてある姿見を恐る恐る覗いてみる。そこに映った姿を見た俺は。
「なんっじゃこりゃああぁぁ!!」
カン高い声で絶叫していた。
そこには緑の長い髪に金色の瞳を持つ、とびっきりの美少女がいたのだ。信じられない話だが、死んだら俺は女になっていた……いや、たぶんちょっと違うな。俺は来世で美少女に生まれ変わったらしい。そうすると、ここは死後の世界ではあるが天国ではなく、地に足の着いた現実世界って事になる。
しかし困ったぞ……俺はこの美少女の名前はおろか、どんな人間なのかもまるで思い出せない。分からないと言えば、美少女を取り巻く環境の全てもだが。
コン、コン
衝撃に頭を抱えていると、扉がノックされた。
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