(5)ふぶきといずくの門出の日

今日は8月17日、いつも通りの朝がきて、今日もおいしい朝ごはんを食べて、

2人はしーちゃんの待つ、放牧地へ行く準備をママとしています。


でも、今日は「離乳」の日。そう、ママとはお別れ、競争馬になる為に

避けられない別離の朝なのです。


なにも知らない2人は今日もママとお話をしています。

それでは、今日も少しだけ覗いてみましょう。



「ママのもひもひはとても、きもちいいぶー」


「ふぶき、お友達にも、もひもひいっぱいするでシュよ?」


「お友達?いずくんのことでぶか?うん、わかってるぶ!」


「いずく、あんたはすこしヤンチャだから落ち着くダヨー

あとケガには気を付けるダヨー」


「わかってるず~かあちゃん、いつもよりうるさいず

そうだ、今日はかあちゃんとお外で寝たいずー」


「いずはもう赤ちゃんじゃないんだから一人で寝なさいダヨ!

そう、あとお友達を大事にするんダヨー」


「ふぶきくんのことでず?わかってるず!ふぶきはおれがいなきゃ

なにもできないず!」


「あらあら、頼もしいダヨー、ほんといい子に育ったダヨー」


そんな親子の最後の会話も終わり、何も知らない2人は、いつも通り

放牧地の門をくぐりました。


でも、今日はママはきません、ここでお別れなのです。


「ふぶ、元気でね、てぴちゃん、しーちゃん、あとは頼んだでシュ」


「いずも、頑張るんダヨー、2人ともあとはよろしくダヨー」


「あれ、ママどこいくぶ?ごはんたべにかえるぶ?」


「かあちゃん、忘れものしたず?しかたないずね」


最初は別れと気付かなかった2人も時間が経つに連れ、不安になって泣き始めます、そんな2人をしーちゃんとてぴちゃんは見守る事しかできません。


「てぴ、残ってくれてありがとでシー」


「シュシュさんとダヨさんにはお世話になりましたデース。だから、私も恩返しがしたかったデース。でも子供たち、なかなか泣き止まないデスネわたしも、すこし悲しくなりマース」


「そうね、何回もこの光景は見てきたけど、やっぱり寂しいわね

でも、2人ともここまで元気に育ったのだから、今日は門出の日、おめでたい日だわ。私達は見守るしかできないけど、精一杯、側にいてあげる事ね」


「シーちゃん日本のむずかしい言葉、よく知ってるデース。さすが、日本が長いだけありマース」


「ふふ、アメリカにはないけど、この「門出」という言葉、とても素敵だと思うでシーよ」


こうして大人組の2人も心配そうに子供たちに寄り添っていると

今日もお日様が、傾いていきます。すると暗くなって2人は、一段と不安な心が広がっていきます……


「ママ、どこいったぶー帰ってくるぶー」


「かあちゃん、はやく帰ってくるずー」


なかなか泣き止まない2人を見かねた、しーちゃんは遂に2人に

真実を告げました。


すると……


「うわーーーん、嘘だぶーもうママに会えないだなんて嫌だぶー」


「ふぶ、おれたち大人になるためだから、仕方ないず……

でも、でも、かあちゃーーーん」


本当の事を知った、2人は更に動揺して、鳴き声も大きくなります

大人の2人はこれを見て、とても困っていました。


そして夜がきてあたりが真っ暗になりました。でも、子供たちは不安で「ゴロン」

する事もできません。そんな時、てぴちゃんがなにかを思い出したようです。


「ふぶき、いずく、一緒に星をみまショー!今日もお星さまがきれいデース」


それを聞いた2頭もママを探して疲れたせいか、そろってゴロンしました。すると……


「あれ、なにかお星さまの声がきこえるぶ、おもいだした!あれはたるおねえちゃんの星だぶ!」


「ふぶきくん、大丈夫よ、ここからお姉ちゃんがみていますからね」


「おれも、聞こえるず、こっちはりく兄ちゃんの星だず!」


「いずくくん、りっぱになったね。今日はお兄ちゃんとお話しよっか?」


星の声を聞いて、子供たちはやっと落ち着きを取り戻しはじめました

そして2人は、眠くなるまで、お星さまといっぱいお話をしたのです。


こうして子供たちにとって長い夜は終わり、朝になりました、昨日は本当に色々あったけど、馬房に帰る時間です。


ふぶきは、まだママがそこにいる事を少し期待していたようですが

でも、やはりママはそこにはいませんでした……


「ママーママー会いたいでぶー」


「ふぶ、大丈夫だよ、いずくがここにいるず」


「てぴもイマース、ダンスみてクダサーイ!」


「いずは、ママに会いたくないぶ?寂しくないぶ?」


「おれは男だから、いつまでもなかないず。それに、いつかかあちゃんに会えたとき、悲しい顔していると、心配するずだから、ふぶもそろそろ泣き止むず、おれがついてるず!」


「いずくん、わかった、ふぶもがんばるぶ……」


「いい子達デース、てぴも泣けちゃいマース」


「ええーてぴお姉さんが、泣いてどうするダヨー」


「ふふ、いまのいずくん、とてもダヨおばさんに似てたぶー」


「やっと、ふぶきわらったね、よかったず!」


「よかったデース!あ~泣いちゃってお鼻が出るデース

噛んじゃいますネ、ズルズルスピー!」


こうして、長かった「門出の日」は終わりを迎え、

今日からまた新しい日々が始まるのでした。



それから早くも1か月が経ちました。秋の天高い0番放牧地には、新しい仲間と共に遊ぶ子供たちの姿があります。


「いずくん、まつぶー どこへいくぶ?」


「ちょっと、走りの稽古してるぶ、ふぶもくるずー!」


2人は、この少しの間で、とても大人っぽくなってきました。そして、新しいお友達も、少しずつですが出来ているみたいです。


この先、ふぶきといずくはどんな大人になるでしょうか?

いつまでも見守っていたいですね。


つづく

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