(7)私の大好きな場所

北海道にも春の息吹が訪れ、たんぽぽもいっぱい咲いています。

そんな5月の暖かな日、0番放牧地は一段と賑やかになり、みんなの待っていた光景が訪れようとしています。今日も見守って行きましょう!


「わたしは帰ってきたでち」


私の名前はくぅ、競走馬の頃はクールフォルテと呼ばれていたでち。

去年まではレースの世界で頑張ってきたけど、怪我もあって、くやちいでちけど引退して、実家に帰ってきたでち。


そして、来年にはママになる準備もできて、私は懐かしい0番放牧地で今はてぴさん親子、そしてダヨさん親子と楽しい時間を過ごしているでち。


「レイちゃん、遊ぼうでち」


「きゃっきゃ、フォルテお姉ちゃんだ」


「レイちゃん待つでち!より君もかわいいでち、あっダヨおばちゃん、久しぶりでち」


「くぅは、距離を詰めるのが早いダヨ、仔馬がびっくりするダヨ!」


「ダヨおばちゃんは、昔と変わらずこわいでちね」


0番の仲間は、他にご隠居さんのしーちゃん、訳あって本場から来ているはっぴーさんもいて、とても賑やかでち。


でも、わたちが一番会いたいのは……

それは、シュシュママなんでちけど、きっとママは私にいい思い出を持ってないでちママの桶を取ろうとしたり、それに私の事がわかるか、とても不安でち

こうして、毛色だって変わったでちから……



なんだか、くぅちゃんとても不安みたいですね。仕方ありません、シュシュママに会うのはほぼ4年ぶりなんですからね。でも、待っていたその時は、不意に早くやってきました。


それは、奇しくも5月14日。母の日の朝の事でした。


「今日から0番でシュか、青草たべ放題でしゅね、しんら行くでシュよ」


「はい、ははうえ!」


「ママ、きたでちね!くぅでち、会いたかったでちー」


「な、なんかへんな芦毛がくるでシュ!にげるでシュ!」


「くせものですか?ははうえ」


シュシュを見つけたくぅちゃんは、一目散にシュシュに駆け寄るのですが芦毛にいい思い出のないシュシュは逃げてしまいます。息子のしんらくんもくっついてママから離れません。


「ううっ…… どうちたらいいでちかー」


結局、この日はくぅちゃんはシュシュに挨拶できずにシュシュ達はいつもの時間に帰ってしまったのです。



そして、翌日。


「うーん、今日もママはわたちから逃げるでち、忘れたでちかね?

ちょっと悲しいでちよ……」


くぅちゃんが少し寂しい思いをしていたそんな時、一人のちびっ子がくぅちゃんの前を通り過ぎます。


「あしげのお姉ちゃん、こんにちはだょ!」


「あ、より君でち、待つでち、そんなにいそいじゃあぶないでちよ」


「へへーん、またないょ!」


「よりくん、待つでちー!」


ショボンとしているくぅちゃんを見て、より君が元気づける為かくぅちゃんと追いかけっこをしています。


それを見ていたシュシュ親子は……


「あの芦毛よく遊びまシュね、あの子はダヨさんの子でシュよね」


「はい、ははうえ!おとなりさんです!」


「ヨリしゅけといったでシュか、あの子を見ているとりくを

思い出しまシュね、りく・・・くぅ?あの芦毛は、くぅちゃんでシュね!」


「ははうえ、くぅちゃんとは?」


「しんら、あなたのお姉ちゃんでシュよ」


「あねうえだったのですか!あいさつしないとですね、ははうえ!」


「そうでシュね、しんら行くでシュよ!くぅ、お久しぶりでシュ」


こうして、シュシュがくぅちゃんに歩み寄っていって

みんなが待ちに待った瞬間がやってきます。


「ママ、思い出したでちか!」


「くぅ、ホントに大きくなって、毛の色も真っ黒じゃないから、わからなかったでシュ、ごめんでシュ」


「ううん、わたちずっとママに会いたかったでち!」


「くぅの話は聞いているでシュ、頑張ったんでシュってね」


「うん、いっぱい頑張ったよ、そして来年はあたちもママになるでち!」


「そうなのでシュね、じゃ私は来年、おばあちゃんになるでシュね……あ、しんらもご挨拶をするでシュ」


「あ、あねうえ、はじめまして、しんらともうします」


「しんらは、面白い口調でちね。おねえちゃんでちよ」


ようやく、2人はこうして、昔を思い出し、くぅちゃんはこのあとずっとシュシュの後をついて回っていました。この光景はずっと見たくて、でも少し予定より早くになってしまいましたが、こんな幸せな光景は見ているこっちも癒されますね。


「くぅ、なにしてるっぴ!ハッピーミサイル!」


「はぴさん、落ち着くでち」


この後も、0番にはいっぱいの幸せが広がりました。


そして翌朝。


「くぅ、今日もきたでシュ、元気でシュか?」


「あねうえーおはようでございます」


今日はシュシュの方からくぅちゃんの駆け寄っていきましたね。

それはとても素敵な朝で……


「ママ、あとであっちにたんぽぽ見にいくでち。しんらもいくでちか?」


「はい、あねうえ!」


……

(りく、見ているでちか?りくと過ごした大切な場所はいっぱいっぱい大好きな場所になったでち、私は今一番しあわせでち!)


(よかったね!くぅちゃん!」


昨日の強い風も収まり、そよ風に揺れるたんぽぽがそんな風に返事をした風に見えて、くぅちゃんはとても嬉しそうです。


さて、明日はどんなしあわせな事が起こるのでしょう?

ずっと、見守って行きたいですね。


つづく

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