(9)巣立ちとしんらの決意

今日は2023年の9月13日。暑かった今年の夏もやっと一息ついて

涼しい風が通る秋のはじめ。

昨日までの大雨も止んで。長屋のみんなも心なしかソワソワしています。


そして、今日はとても大事な日。こっこ達が、ママの元を離れる巣立ちの日。

競走馬になる為に、乗り越えなければならない試練の日なのです。


はたしてしんらと、2人のこっこは乗り越えられるでしょうか?

それでは、今日も少しだけ覗いてみましょう!


「ははうえ、もうすぐ放牧ですね!今日は何をして遊びましょう?」


「そうでシュね、しんら。しんらはとてもえらい子でシュね。

ママは、ほこりにおもいまシュ」


「ははうえ、急にどうしたのだ?あらたまって」


「なんでもないでシュ、しんらがとても強い子に育ってきて

ママは嬉しいだけでシュよ」


「ありがとなのだ!我は、ははうえを守るため、もっと強くなるのだ!

ずっと、ははうえと一緒なのだ!」


「ふふ、心強いでシュね。でもしんら、ママだけじゃなくてみんなを

守ってほしいのでシュよ?」


「みんなとは?より殿や、レイ殿たちの事ですか?」


「そうでシュ、くぅちゃんや、しーちゃん、はぴさんも守ってほしいでシュ」


「な、なかなか大変そうだけど、我はがんばってみるのだ!」


「頼もしいでシュね、頼んだでシュよ」



こうして、しんらはこれが母との最後の会話となるとは、つゆ知らず

みんなと、0番放牧地へ向かいました。


いつもなら親子で、入りますが今日は違います。ママたちとはここでお別れ

しんら、よりくん、レイちゃんだけが0番放牧地の門をくぐります。


「ははうえ、どこへいかれるのじゃ?」


「かあちゃん、いないょ?」


「マミーーまた迷子なのー?」


置いていかれたこっこ達は、それに気づくと、慌てはじめました。

大人たちもそれにつられて、走り始めます。


しんらの姉のくぅちゃんもとても慌てています。


「ダヨさーん、どこでちか~!」


「あねうえまで、これはどうなっているのだ!?」


やっと、少し落ち着いた頃、しんらはしーちゃんに尋ねました。


「ばぁば、これはどういう事なのだ?」


「しんら、耐えるのでしーママたちとは今日でお別れなのでしー」


しんらは、自分たちが将来、立派な大人になるために母と別れねばならないこと

他の馬たちもそれを乗り越えて来たことを、しーちゃんから聞かされたのです。


「じゃあ、我はははうえともう会えぬということなのか?」


「うそだょ、かあちゃんーー」


「マミーーー」


すべてを知ったしんらたちは、とても悲しくなって、思わず鳴いてしまいました。

よりくんと、レイちゃんは諦めきれずに、まだママを探しています。


いつもと雰囲気がちがって、はっぴーさんもピリピリして

しんらとよりくんに飛んできました。


「はっぴ!」


それに驚いた、よりくんは転んでしまいます。


「かぁちゃーーーん」


「より殿!大丈夫であるか?」


幸い、怪我はありませんでしたが、いつも元気なよりくんの顔も今までに見た事のないような悲しい顔をしています。


「我はどうすればいいのだ!」


しんらは、母がいない寂しさ以上によりくんとレイちゃんの事を心配しています。そう、元々とても思いやりのある優しい子でしたから。


こうして夕方になり、お日様も沈んで、夜が更けていきます。

雲の間から、3つの星も心配そうにこっこ達を見つめていました。


「きっと、朝になっておうちに帰ったらマミーが待ってるデース」


「そうだょ、お買い物にでもいってただょ?」


「……」


2人は、ママ達が長屋で待っていると信じているみたいで、しんらはこの時なにも言えませんでした。しんらも、少しだけ母上が戻っていることを期待していたのかもしれません。


しかし、現実は違っていました。よく朝そこに帰ると誰もいません。

案の定、部屋も変わってしまったレイちゃんはまたママを呼んで、鳴いてしまいます。よりくんも不安な顔をしてごはんも手につかないようです。


「マミーー」


「かあちゃーん、どこいっただょ?」


「レイ殿、より殿……」


しんらも、悲しくなって泣こうとした時、昨日母上から聞いた言葉を思い出しました。

(みんなを守ってほしいのでシュよ?)

『そうだ、我は泣いてはならぬ!二人を守らなければいけないのだ!』


「レイ殿~桶がとてもおいしいのだ!そうだった桶は久しぶりなのだ!」


「マミーーーー」


「より殿~相撲をとらないか?我の新技、試させてほしいのだ」


「かあちゃーーん」


こうして、泣いている二人を元気づけようと、けなげにしんらは頑張りました。

でも、二人はなかなか落ち着いてくれません。


しんらは、仕方なく自分のごはんを一生懸命食べます。これも母の教えでした。


(どんな時もごはんは大事でシュ、とにかく食べるでシュ!)

『はい、ははうえ!』


すると……


「しんら、おいしそうに食べてるデース、レイもおなかすいたデース」


「おなかすいただょ、タイヤ桶たべるょ」


二人もしんらを見習って、ごはんを食べ始めました。すると少し落ち着いたみたいです。


「ごはん、おいしかったデース」


「ごちそうさまだょ」


ごはんが終わると3人は、顔を見合わせて笑顔になりました。

やっと元気が出てきたようですね!


その後も、レイちゃんは桶のおかわりをいっぱい食べて、よりくんは絨毯で遊んだり、いつもの長屋が少し戻ってきたようでした。


そして、時間が来て今日は3こっこだけで、0番放牧地へ向かいます。

その顔にもう、涙はありません。


門をくぐると大人たちが、笑顔で待っていてくれました。


「より君、昨日はごめんっピ……」


「大丈夫だょ、ハピおばさん!」


「レイ、ごはん食べられたでしー?」


「ばぁば、ありがとデース いっぱい食べたデース!」


「あねうえ、大丈夫ですか?」


「もう大丈夫でち!ありがとでち。しんら本当につよくなったね

おねえちゃんはとても嬉しいでち!自慢の弟でち!」


「あねうえ、ありがとうなのだ!」


えっへんと、しんらはとても誇らしそうです。


この後も、少し寂しくて鳴く事はあったけど、3こっこは元気に過ごしています。

この日はお昼から再び大雨が降りましたが、0番のみんな寄り添ってそれも乗り切りました。


あくる日。夜になる頃には3こっこだけでゴロンできる様にもなり、そんな様子をくぅちゃんが見守っています。


「あねうえはゴロンしないのだ?」


「しんら、ありがとでち、おねえちゃんはシークレット幼稚園の先生なのでしんらたちを見ているでち!」


「あねうえ頼もしいのだ!」


「しんらが頑張っているから、おねえちゃんも頑張るでち!あたちも来年はママになるでちから!」


「そうなのか!?めでたいのだ!」


「そうなると、来年はしんらもおじさんになるでちね?でも、まだ小さいでちから、おにいちゃんでいいでち!」


「我がおにいちゃん…… がんばるのだ!」


そんな姉弟の会話を雲の間から、星たちも嬉しそうに眺めています。


「あねうえ、ねむいのです……」


「今日はつかれたでち?ゆっくりやすむでち」


「スー スー」


「す~ すー」


「マミー…… スピー」


3こっこは息をそろえて眠りについて、長い2日間が終わろうとしています。

それを秋の虫たちがまるで子守歌を歌うように鳴いていました。


明日はどんな一日が3人に待っているのでしょう?

また、見守りましょう!


つづく

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リアルダビスタ・擬人化ショートストーリー集 セイカ(ペンネーム:はすみん) @ral20102

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