春秋戦国の世に、「晋」という国があった

 実はこの「晋」という国、馴染みのないように見えて、(おもに)宮城谷昌光氏によって、いろんな人物を中心に据えて小説化されている。
『重耳』『孟夏の太陽(趙盾含む趙家)』『沙中の回廊(士会)』
私は宮城谷昌光氏のファンなので、このあたりの作品は全部読んでおり、登場人物の来し方、行く末はだいたい頭に入っているわけですが……

 それでも、この作品は充分に面白い。

 本作は末代までを描いてはいないものの、人ではなく「晋」という国のありよう、その覇権国家としての栄華とやがて来る凋落の予感を描いている。

 主人公に据えたのは、「郤缺」で、逆臣の子、という立場から卿にまで上り詰めたその人生は華々しいものの、ある意味、あまり注目されてこなかった。
(おそらく同時代の天才、士会や、主君との不幸な関係で有名な趙盾が目立ちすぎるせいだと思う)
 しかしこの人物を主人公に据えたことで、晋という国を奥行きをもって描けていると思う。

 また、ほかにもおりおりに祭礼や気候の描写があることで、古代中華の空気も感じられる。
 いわゆるBL表現はかなり抑制的に描かれているのであまり人を選ぶ描写ではない。加えて、彼らはもちろん一族の長として、女性を娶っているわけだが、彼女たちとメロドラマ的なやりとりがあるわけでもないので、その手の恋愛にまつわるごたごたを歴史物語に求めていない方の拒絶感もないように思う。
 けれども、作者の描く「関係」に基づく情趣は非常にきめ細やかで「体温」が感じられる。そう、しみじみと、哀しく、愛おしい。

 何度でも言いたい。本作は、ほんとうに面白い。

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