短編で盛りに盛った物語
1600年代、中国。
科学が、世界にある種の「風」をもたらしていた、もしくはもたらそうとしていた時代。
17世紀と言えば、11世紀には精緻を極めたイスラム科学……ヨーロッパはその後塵を拝するばかりだったのが、大航海時代を経て、そのお株を奪ってヨーロッパが台頭していた時代だ。
登場人物のひとりであるヨーロッパからの来訪者、彼は宗教人であるにもかかわらず、根っから科学的思考をし、そして西洋科学に絶大な自信を持っている。(それゆえに他の文化・文明についてはちょっと見下している気配がある)
これがこの当時の西洋知識人階級の考え方というか、空気感を体現しているように読めて、リアリティを感じさせてくれる。
現代人の我々からすると、その矜恃は痛々しくもあるのだが、彼はそれにも増して奇矯を纏っているため、あまり気にならない。
方や中華の英才、かつ常識人。
このふたりがバディとなって宮廷に巡らされる奸計を解き明かし、科学の力で解決する。
こんなの面白くないわけがない!
と、いうことで、長編第1話の趣もある本作、長編化してくれたら良いなと思っています。
本作は、大清帝国に西洋の学問が流入し始めた頃のお話。
主人公・陳元龍は若くして科挙に及第し、皇帝直属の学士となった才人だ。そんな彼だったが、罪を着せられて異動を命じられてしまう。ところが意外にも異動先は閑職ではなく、天文を司る重職だった。そんな新たな仕事場で彼を待っていたのは奇妙な異邦人・白晋で――
異文化と出会い戸惑いつつも、持ち前の頭脳で理解しようと奮闘する陳元龍のすがたに好感しかありません!陳元龍を教え導こうとする白晋も変わり者ですが、飄々としていて明るく魅力的な人物。
この真面目な優等生と変わり者のバディが科学の力で奇妙な事件を解決していく――そんな物語が面白くないわけがありませんよね!
しかも、作者様は中国の歴史や文化に詳しい方で、中国らしさも存分に味わえます。
中華風小説が好きな人も、ミステリー好きな人も満足できること間違いなしの短編小説です☆