第26話 反撃

 飛影が空の頭を手で強引に下げた。


「あっぶねぇ」


 そのまま空の服の袖をつかみ、巻き込みながらごろごろと転がる。


「チッ」


 男は舌打ちをしてその場から素早く離れた。


「飛影!サンキュー」


 空は立ち上がって体制を立て直した。


「戦闘中に気抜いてんじゃねぇよ」


 飛影も立ち上がって相手を見る。


「悪かった、もうしねぇ」


 空は再び男に弓を構える。


 男は刀を構えたまま深く息を吸った。


 膠着状態になり、どちらも動けずにいると男は


「貴様らは何がしたいんだ!何の罪もない女子供を手にかけて、挙句の果てに村を焼き尽くすなど!」


と怒鳴り声をあげた。


 男は私たちを襲撃者と勘違いしているようだった。


「ちがう!私たちはこの村を襲ってなんかない。私が来た時にはもう……」


 私は誤解を解こうと説明した。


「そんな言い訳が通用すると思っているのか!」


 男は聞く耳を持たない。


 私がどうしようか悩んでいると飛影が口を開いた。


「おまえ、楓か?」


 その名前を聞いた男は少し動揺した。


「貴様、なぜ俺の名を知っている」


 男は飛影をにらむ。


「やっぱりそうか!俺は飛影だ。ほら、鳳仙花の」


 飛影は自分の羽織を見せながら言った。


 どうやら飛影はこの男のことを知っているようだった。


「飛影?」


 男は一瞬考えたがすぐに思い出したようだ。


「おぬし、ほんとに飛影か?」


 鋭く放たれていた殺気が消えた。


「ああ……そうだ。こいつらは俺の仲間なんだ。とりあえず刀を納めてくれないか?」


 飛影は楓にそう言った。


 私と空を一瞬見て楓は刀を納めた。


 私も銃を降ろし臨戦態勢を解いた。


「すまなかった……こんなことになって冷静じゃいられなかった。まだ火がついてから間もないころだったから敵が近くにいると思って」


 楓は頭を下げた。


「いや、仕方ねぇさ。それよりおまえがいたはずなのになんでこんなことになったんだ?」


「まって飛影。その話はあとでもいいかしら」


 私は話を遮った。


「いたのか?」


 飛影は私の意図を汲み取ってくれた。


「えぇ、ここから東の道を歩いている黒い集団を見つけた。多分この村を襲撃したやつらよ」


 私は目で見た情報から推測する。


「数は?」


「二十三。おそらく幹部クラスが二人」


 隊列の組み方や態度、歩き方、その他の情報から読み取る。


「奇襲は?」


 飛影は少ない情報から戦略を立てる。


「行けるわ。ここから先は山道だから隠れられる場所はたくさんある」


 山に囲われた独特の地形は奇襲にうってつけだった。


「敵が油断してる間に一気に仕留めるぞ。ここからは敵の方に向かいながら考える。楓も来てくれ」


 飛影は楓に視線を移した。


「もちろんだ」


 楓は強くうなずいた


「もみじ……少しだけ待っててくれ」


 村の方に楓はつぶやいて、私たちとともに走り出した。

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