第7話 宴

 街はお祭りの準備を初め、夜には宴会が始まった。


「あんた、名前はなんて言うんだい?」


 隣に座った男が声をかけてきた。歳は私より少し上ぐらいの青年だった。


「私は紅花。紅の花と書いて紅花」


 私はあの人に付けてもらった名前を名乗る。


「紅の花で紅花か。あんたにぴったりの名前だな。俺は空って言うんだよろしくな」


 彼は手を差し出し握手を求めてきた。


「よろしく」


 私は出された手を握り彼に笑いかけた。


「っ……」


 彼は顔を逸らし、おいてあったお酒を一気に飲み干した。私は彼の行動を不思議に思いながら、目の前にある料理を食べた。


 その中には今日仕留めたイノシシの肉もあった。私は手を伸ばし肉を食べる。


「ん、おいしい」


 私はイノシシの肉が思ったよりおいしかったので自然と声が出た。


「これあんたが仕留めたんだろ。すげぇよな。こいつが出てから猟に行けなくなっちまって困ってたんだよ。弓だとこいつは仕留めらんなくてさ。それに最近は物騒なやつらも森にいてさ。」


 空は私が食べる様子を見ながらそう言った。


「その間の食料はどうしていたの?」


 私は疑問に思ったことを空に聞いた。


 空は食事の手を止めずに話しだす。


「基本的にこの村は自給自足の生活をしてる。畑もあるし川も近くにある。だからそこまでは困らないんだ。けどやっぱそれだけだと足りねえし、毛皮とかを他の街に売りに行ったりしなくちゃいけねぇから、猟が出来ないと困ることが多いんだ」


 村の様子はそこまで深刻な感じではないように見えたが、苦労はどこもしているのだなと私は思った。


「そんなことよりあんた、当分はこの村にいるんだろ?俺に武器の扱いを教えてくれないか?」


 空は私の腰に携帯されている短剣を見て言った。


「猟に出るだけなら弓や銃で十分じゃない。特にこの村は高い精度で弓を使える人たちが多いみたいだし」


 私は村人の体つきとそこら中にある弓の的を見て言った。


「そりゃ俺だって弓はそこそこ使えるさ。ただ弓はあくまでも遠距離で使うものだ。いざというとき近接戦闘もできないと大事なものは守れないだろ」


 空は真剣な目をしながら私に言ってきた。私は彼の言葉に違和感を感じた。


「近接戦闘………それはどういうこと?」


 私は彼にそう聞いたが彼は


「それは………」


と言葉を濁した。


 けれど彼の真剣な目は強い決意を表しているように見えた。


「いいわ、教えてあげる。その代わり私には弓を教えて」


 私は交換条件を出して彼の願いを聞き入れた。


「マジで!?ありがとう!でもあんたは弓なんか覚える必要あるのか?」


 彼は喜びと戸惑いを見せた。


「えぇ扱える武器は多い方がいいの。いざというときに何か役に立つかもしれないから」


 私は自分の手をみてグッと握りしめた。


「そうと決まれば明日からよろしく頼むぜ、紅花」


 彼は立ち上がり私にまた握手を求めた。


「えぇよろしく」


 私は彼の手をとり明日から始まる日々のことを思った。


 翌日

「お姉ちゃん、空おにいちゃんが外で呼んでるよ」


 鏡花が私を呼びに部屋に入ってきた。


「えぇいま行くわ」


 私は羽織をまとい、空が待つ玄関に向かった。


「遅いぜ、紅花!さぁ早く行こうぜ」


 空は私をせかすように言った。


「そんなに慌てなくてもちゃんと行くわよ」


 私は空を諭しながら彼のもとへ歩いて行った。


「いってらっしゃーい」


 私が玄関を出るときに鏡花が私に言った。彼女が発する言葉は温かくて心地よかった。


「いってきます」


 私は微笑みながらそう言って玄関を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る