第19話 約束

 私たちは村に戻ると少しずつみんなが起きてきていた。


「あぁ……おはようございます紅花さん、飛影さん。昨日は飲み過ぎてしまって失礼しました。鏡花が朝食を作ってくれているようなので、うちで食べて行ってください」


 鏡花の父は私たちを見つけてそう言った。


「おっ、鏡花ちゃんの料理か。楽しみだな」


 飛影はそう言って鏡花の家に向かった。


 私もありがとうとお礼を言って飛影の後ろに着いて行った。

 

 家に入ると鏡花が机に料理を並べていた。


 私たちに目線を向けるとこう言った。


「お姉ちゃん!おはよう!朝ごはん作ったから食べて!そっちのお兄ちゃんは……えっと……だれ?」


 鏡花は飛影を警戒して、机の隅に体を隠しながらこっちを見ていた。


「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。彼は私の仲間だから」


 私は鏡花に飛影を紹介した。


 すると飛影は鏡花の近くに行って、片膝になり目線を合わせた。


「おはよう、鏡花ちゃん。いきなり来てごめんね。俺は紅花の友達なんだ。だから一緒にご飯食べてもいいかな?」


 優しい口調で飛影は鏡花に尋ねた。


「お姉ちゃんのお友達だったの?それならいいよ!みんなで一緒に食べよう!」


 鏡花は警戒心を解いて笑顔になった。


 飛影のこういうところは私にはまねできない。


 私たちは鏡花が作ってくれたご飯を食べて一休みした。


「さてと……この村出るぞ」


 飛影は突然そう言った。


「え?」


 私は飛影の言葉に驚いた。


「昨日はお前を安心させるために平気だって言ったけど、あいつらも馬鹿じゃない。壊滅させたのに部下が一人も帰ってこないなんて、おかしいと思うだろ?それにあくまで狙いはお前だ」


 飛影は冷静に言葉を重ねた。


 私は立ち止まるわけにはいかなかった。


 だがこの村を見捨てていくことも出来ないと思った。


「この村の人たちも戦闘能力はそこそこ高い。幹部が来なけりゃだいじょぶだろ」


 私の顔を見て察したのか飛影は私を安心させる言葉をかけた。


「まぁそういうわけだから荷物まとめてくれ。俺は門のところで待ってっから」


 飛影はそう言って後ろを向き歩いて行った。


 私は村人たちにこの村を出ることを話した。


「そうですか……私共としましてはずっといて頂いても良かったのですが……」


 鏡花の父はそう言ってくれた。


 この村は私にとって居心地が良かった。


 だからこそ長く居すぎると離れがたくなってしまう。


「ありがとう。でも私がやらなきゃいけないことに気付けたから」


 私は自分の想いを口にした。


 彼らも私の想いを汲み取ってくれたのか、引き留めることはしなかった。


「お姉ちゃん……どこか行っちゃうの?」


 鏡花が父親の陰から顔を出し私に聞いてきた。


「えぇ、少しだけ用事があるの」


 私がそう返すと鏡花は


「一緒に海に行く約束は?」


と初めて会った日にした約束のことを話した。


 不安そうな顔をする鏡花に私は


「用事が済んだら必ず戻ってくるわ。その時に一緒に行きましょう」


と鏡花に微笑みながら言った。


「分かった……お姉ちゃん絶対だからね!約束!」


 鏡花は不安そうだった顔を上げてそう言った。


「えぇ……約束」


 その言葉は私の運命を大きく変える言葉となることを、まだ私は知らなかった。

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