第21話 不具合

「お前ら、歩くの速くねぇか?」


 空は木にもたれかかりながら言った。


「ん?あぁ?そうか?これが普通だと思ってた」


 飛影はスタスタと山の中を歩きながら言った。


「お前らの普通は全然普通じゃねえよ。ったく紅花もなんか言ってくれよ」


 私にも話を振ってきた。


「私もこれが普通だから何も言えないわ。でも空ならこれぐらい簡単に出来ると思ったんだけど」


 と言うと空は


「いやまぁちょっと速いなって思っただけだから別についていけないことはねぇし」


 と強がりを言った。


私も空の扱いが少しずつ分かってきたなと思い、少し笑みがこぼれた。


「ま、ちょうどいいやこの辺で今日は休むか。空もだいぶ疲れてるみたいだしな」


 飛影はそう言って座った。それを聞いた空は


「俺はまだ平気だぜ、このまま伊織村に行けるぐらいの体力はある」


 強がって言ったがだいぶ足に疲れが見える。


「そう強がるな空。それに休憩するのはお前のためだけじゃない。今は黒の月の情報が少なすぎるんだ。部隊単位で動いてるならまだしも今は三人だ。他の味方とのつながりが無い分、慎重に行かなきゃいけない。休憩はそのためだ」


 飛影は空をなだめるように言った。


「お、おう……そんな考えがあったのか。じゃあ」


 と言って空は岩の上に座った。


「そう言えば飯とかどうすんの?」


 空は飛影を見て言った。


「ん?その辺にあるもんを適当に」


 空は辺りを指さした。


「適当にって雑だな。なんか探しながら歩いてくればよかったぜ」


 空はがっかりした。


「しょうがねぇな……紅花、この辺になんかいるか?」


 飛影が私に言ってきた。


「探してみるわ」


 私は目を紅くして視野を広げ森を見渡した。


 その様子を空と飛影は静かに見ていた。


「いた……三百メートル先に鹿がいるわ」


 私は見失わないように、目はそのままで鹿がいた方向を指さして言った。


「おっいいね。鹿肉か、うめぇんだよな」


 飛影はにやりと笑い言葉を続けた。


「じゃあ空、狩りに行くか」


 空はおうと言って立ち上がった。


「こっちだよな……あれ?なんだこれあのときみたいだ」


 空は左目を手で抑えて困惑した様子を見せた。


「どうしたの?」


 私は鹿から目を離さないようにしながら聞いた。


「いや、その……鹿がはっきりと視えるんだ。他の木とか草が薄くなって鹿だけが鮮明に視える。あいつに矢を当てたときもそう視えてたんだ」


 空は自分の状況を説明した。飛影は興味深そうに聞いていた。


「なんかこれ視界がいつもと違うから気持ち悪くなってくるな……」


 片目だけ焦点が合わなくなっているのか、空の足元は少しふらふらしている。


「大丈夫?」


 私は空に声をかける。


「いや、ちょっとやばいかもしれない。いつも通りに戻そうとしても全然戻らねぇ……」


 空はその場に座り込んだ。


「左目だけ閉じればいいんじゃねぇか?」


 飛影は空にそう提案する。


「多分空の目は特定の生物を認識できる範囲内で視ることが出来るみたいな感じだと思う。認識しても目を閉じれば見えてないのと同じだから治るはずだ」


 飛影は空の目の能力についての仮説を説明した。


 飛影が言っていることが正しければ、私の目とかなり相性がいい。


「あぁ……何言ってるかよく分かんねぇけど、とりあえず閉じてみる」


 空は左目をぎこちなく閉じた。


「片目だけ閉じるってむずいな……お?でも治ったみてぇだ」


 空は立ち上がった。


「それで、飛影が言ってたこと半分も理解できなかったんだけど、詳しく聞いていいか?」


「とりあえず鹿捕まえてからにしようぜ。せっかく大物がいるのに逃すのはもったいねぇよ」


「あぁそうだな。すっかり忘れてたぜ」


 本来の目的を思い出した私たちは鹿狩りに山道を進んだ。

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