第16話 変化の意味

 今回の襲撃の目的は不明だが村の被害は少なかった。


 建物の損害は多少あったが入口付近のみで済み、村人からは死者がでなかったようだ。


「紅花!やったな」


 空が屋根から降りてきて私に声をかけた。


「みんな無事でほんと良かった」


 辺りを見ながら空は安堵の表情を浮かべていた。


「そうね。あなたがいなければこの戦い負けていたわ」


 私がそう言うと空は不思議そうな顔をしていた。


「何言ってんだよ。紅花がいなけりゃの間違いだろ?」


「いいえ、違わないわ。あなたが撃ち抜いたあのスナイパーが今回の敵軍の総大将だったみたい。あのスナイパーが生きていたらこの村の人たちはみんな死んでいたわ」


 私は空にそう返した。


「え?そんなにやばいやつだったのか!?ん?てことはだ。そんなすごいやつを倒した俺はめっちゃすげぇってことじゃねえか」


 空は嬉しそうにはしゃいでいた。


 さっきまで戦場にいたとは思えないほど明るい。


 そんな様子を見ていたら私は空のある変化に気付いた。


「空!その目……」


 空の左目が緑色に変化していた。


「俺の目がどうかしたか?」


 私は近くにあった鏡の破片をもって空に渡した。


「なんだこれ!目の色が違う?!」


 空は鏡に映る自分の目を見て驚いた。


「え?えっ、これ何?なんで俺の目が緑に」


 慌てる空を見て私は笑みがこぼれてしまった。


「おい、紅花。何笑ってんだよ!これどう考えたってやばいだろ!」


 空は微笑む私を見て怒った。


「ごめんなさい、あまりにもうろたえてたからつい。でも平気よ。私も同じだから」


 そう言って私はみんなの前で目を赤く染めた。


「この目は私が初めて戦場を経験したときにこうなったの。鳳仙花には普通の人とは目の色が違うメンバーが何人かいて、そこまで珍しいことではないわ」


私は目の色を戻す。


「それぞれの目には何かしらの能力が備わっていることがあるわ。稀に目が変わっても能力が発現しないことがあるけれど」


 私はそう言ったがみんな信じられないという顔をしていた。


「じゃあ紅花の能力って」


 空だけが私の話を信じて聞いてきた。


「私の能力は空中から現状を見ることのできる能力。今回スナイパーを見つけられたのもこの能力のおかげよ。空、あなたも何か思い当たることはない?」


 私が空に聞き返すと空は目を閉じて先ほどの戦闘を振り返った。


「ある……紅花に言われてスナイパーを見つけようとしたとき、絶対に見えないはずの姿が視えたんだ。何て言うかその……男の姿だけが鮮明に視えたというかなんというか」


 空は一生懸命説明しようとしたが言葉が出てこなかった。


「それがあなたの能力よ。今はまだあいまいだけれど訓練すれば使いこなせるようになるわ」


 私は空にそう言った。そして私は腑に落ちた。『空と訓練していた時に負けた原因はこれだったのだ』と。


 空の能力は私の推測だとおそらく透視のようなものだろう。


 そうならば索敵能力は普通の人間の何十倍にもなる。


 それに目が発言した者は運動能力が飛躍的に上昇する。


 目を使っていないとはいえ素人が、私の裏を取ることなど不可能であるはずだった。


 が、目が発現する前兆だったとしたら納得がいく。


「そうか……俺すげぇじゃん!」


 空はまた喜びを爆発させた。その勢いのまま空は言葉を続けた。


「紅花!俺の力って黒の月に対抗できるか?」


「えっ、えぇ訓練すればやつらに対抗できると思うわ」


 私は予想外の言葉に戸惑った。


「そうか……」


 空は自分の拳を握りながら言った。


その時の顔はどんな感情だったのか私には分からなかった。


 空はすぐに表情を変えてみんなの方を向いた。


「ひとまず俺のことは置いといて。みんなー今日は勝利の宴だー」


 そこに集まっていたみんなは「おお!」と言って私がこの村に来た時と同様に準備を始めた。


 この村の人たちは宴が好きなようだ。

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