去りゆくものへ輝きを

「土食て虫食て口渋い」などと聞きなしされるのがツバメの本来の生態である。彼らは飛翔する昆虫を空中で捕食する。そして、集団で就塒して、季節に応じて土地を渡っていく。
さて、本作のツバメは、およめさんを探してあちらこちらへと飛びまわる。風鈴に話しかけ、女の子に話しかけ、紫陽花にもアゲハ蝶にも話しかける。でも、誰からも良い返事が貰えない。そんな彼が出会ったのは、夜、仄かに光る蛍だった。

彼らの恋模様。
少しでも知識のあるわたしたちならば、それが悲恋に終わることは想像に難くない。
しかし、彼らの出逢いが不幸だったと決めつけるのは早計だろう。
垣根を越え、愛を育み、いずれ再会を約束して永遠の別れへと旅立つ。それは、万物が辿る宿命でもあり、すなわち、わたしたちが経験する掛け替えのない〈生〉の縮図でもある。
ツバメと蛍。彼らを通じてわたしたちが抱く感傷は、ともすればわたしたち自身が、自らに引き受けなければならない哀しみを思い出させてくれる。それと同時に、そう、去りゆくものこそが、出逢いを、一つの輪郭の中で輝かせてくれるのだ。淡く、いずれ消えゆく蛍の光は、わたしたちの記憶の中で強く煌めき、それは、遠く、ツバメの軌跡をも照らしてくれることだろう。