第5話

 第634塔、それは東京スカイタワーと同化する様に堂々と聳え立っていた。


 世界各地に現れた千の塔は、東京なら東京都庁、東京ツリー、東京スカイタワーの3つだ。

 高さはそのまま塔の別称となるため、第243塔、第333塔、第634塔というわけだ。


第243塔、第333塔は既ににもう1人の俺が攻略済みだ。

 ちなみに高さ=攻略難易度となっていることが多いらしい。

 

 そして攻略者は塔の頂を目指す。

 その最大の理由、それは塔の頂上にある現在の技術では解析不能で特別な力を持つ、神骸しんがいだ。


「ま、1階層をうろうろする俺には関係ないけどな」


 そんな独り言を呟きながらスキルを確認する。

 これも不明とされているものだが今の所良いことしか無いので使わない手はない。


名前 高橋英樹

所持金 165729円

【スキル】

器用Lv2、解体術Lv2

【エクストラスキル、ユニークスキル】

なし

【アイテムボックス】

ナイフ、布袋、水、下級骸片【鶏】


 わかっていることはスキルは何か技術を磨くと発現、習得すること、アイテムボックスは自分の体重と同じ重さのアイテムなら何でも持ち運べることだ。


 俺の場合は骸物の解体や料理でスキルを取得した。

 スキルレベルはたかが知れていたが。


 ステータス画面のナイフをタッチし取り出しますか?と言うポップアップではいを選択すると、右手に小さな刃渡り15cm程のナイフが現れた。


「よし、行くか」


 ダンジョンの周囲は巨大な壁に囲まれ、管理所から中に入るようになっていた。

 管理者に免許証を見せてから下層までの許可証を貰いダンジョンの門をくぐる。


「……慣れないな」


 中は薄暗く寒い。

 一言で言えば洞窟、周囲には岩しかなくライトが壁面に打ち付けてあるだけ。

 中層以上は様変わりするらしいが。


 ダンジョンを制覇して権力を手に入れ、モテモテに!とかは思わなかった。


 そもそも他人や物に興味を持つ事は少なかったし、前の世界や神様の一件もあり期待せずに生きることが加速している気がした。


 とは言え竜胆家にはお世話になっているので、そこは人として恩返しはしたい。


 今日が最後なら鶏骸ニワトリは大量に狩っておきたいが……


「やっぱりいるよなぁ……ライバルが」


 鶏骸ニワトリはニワトリに似た雑魚モンスターだ。

 元々世界中にいたニワトリは全て居なくなったせいで鶏骸がニワトリとかチキンとかと呼ばれるようになった。

 攻略者を見ると逃げるし、逃げ足も俺よりもちょっと遅いくらい。

 あとめちゃくちゃデカい、1mはある。


 他にも634塔には様々な骸物がいる。

 貴重な栄養源がもう取れなくなるなんて個人的には大損害だと思うがそれ以上に神骸は有用なものなんだろう。


 既にもう1人の俺が手に入れた神骸の1つである治癒神骸ヒーリングは対象が死んでいなければどんな傷や病気すらも瞬時に完璧に治療出来るものらしいし。


「それじゃ……火炎ファイア!」


 ナイフが炎を纏い、振り抜くと鶏塊物の首を跳ね飛ばす。


 ダンジョンと同時に現れた魔法、これは炎、水、風、地、雷、氷、光、闇の8つを操るもの。


 火で燃やす、風で飛ぶ、地を隆起させて壁を作る、雷で麻痺させるとかはできるが光魔法で治癒するとか、闇魔法で相手を呪うなんてことはできない。

 これも鍛錬を積み重ねることで強力な魔法が使えるようになるらしい。

 ちなみに魔力なんてものはなく、代わりに消費するのは骸片だ。

 とにかく何でも良いらしいが、質の良い骸片だと魔法の威力や維持時間は長くなるようだ。



「光と闇がクソ魔法だなんてゲームとは大違いすぎるよなぁ……」


 ちなみに光は目眩し程度しか出来ないし、闇魔法は暗くして視界を奪うくらいしかできない。


「さて、お前ら覚悟しろよ?」


 ぷるぷると震えるでかにわとり達。

 心なしか強くなった気がした。


………

……



「これくらいで十分だろ」


 合計10匹、一匹5kgちょいで60kgはある、これならしばらくは持つ量だろう。

幸いな事にアイテムボックスに入れさえすれば状態保存されるらしく腐らない。


 とはいえ今日の収穫だけでアイテムボックスはほとんど埋まってしまった。

 タダだからとつい獲りすぎてしまったな。


「もう16時!?早く帰って夕食の準備しないとヤバい!!」


──……か……


「ん?今何か……」


 何か聞こえた気がしたが……気のせいか。


 今日も楽しい狩りと主夫生活だった。


 明日も明後日も、きっと同じ様な生活が続くはずだ。

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