第12話

「ただいま帰りました、公平さん」

「ただいまこーへー!」


 学校から帰ってくると夏希がいつもよりも激しく抱きついてくる。


「公平さんが嫌がっていますからやめてもらっていいですか?」


「そんなことないよねーこーへー?」


 嫌じゃないんだが離れて欲しいのは確かだ。

 汗と制汗剤の香りで色々と反応してしまう。


「シャワー浴びて来い、今日も多夏哉は遅くなるらしいから先に食べていいとさ。今日は唐揚げだ」


「唐揚げ大好き!じゃ凛花ちゃんと一緒にシャワー浴びてくる!」


「なっ!?何故ですか!?」


「節約だよ、ほら行くよー」


 凛花が夏希にずるずると引っ張られて行く。

 仲がいいんだか悪いんだかわからないな。



◇ ◇ ◇



「いただきます」

「いただきます!!」


 唐揚げは作るのは大変だが、2人は今日も美味しい美味しいと連呼して食べてくれるのは嬉しいものだ。


「今日は凛花が来たから大変だったよー、2年の男子全員休み時間教室に来るからうるさくてうるさくて」


「そんなに人気だったのか」


「知らないの?凛花ちゃんアイドルとしても活躍してるんだよ。ちょーかわいいと思ってたのにまさかこんな意地っ張りだったなんて……」


「そんな話どうでも良いです。公平さん、これから私達がどうするかについてお話ししましょう?」


「そうだ、凛花に聞きたいこと『3サイズをお教えしていませんでしたよね?ウェディングドレスに必要ですよね、上からむぐぅ』」


「食事中は静かにしてよねー」


「凛花、俺が最上層で無くした物があるらしいんだが何が知ってるか?」


 凛花はきょとんとしていた。


「知っているには知っていますがそれも忘れてしまったのですか?」


「ああ、教えてくれるか?」


「確か指輪だったと思います」


「指輪?」


「はい、大切な物だと教えてくれましたがそれ以上は何かは教えてくれませんでした。結婚指輪ではないことは間違いないです、なぜなら公平さんは私と結こむぐぅ!?」


 凛花は夏希に唐揚げを突っ込まれていた。


 指輪か。

 どれだけ大切な物かはわからないが、それだけの為に行く必要は無い気がする。


 俺ともう1人の英雄は別人なのだから。


「そんなことよりもおかわり!」


「はい、どんどん食べてくれ」


「ありがと!やっぱりこーへーは主夫が似合うよ、塔攻略に関わらなくていいって!」


「私が働き出迎えてくれる公平さん……それもありかもしれません」


 随分と勝手な妄想をされているが主夫も悪くないかもしれない。


「早く帰ってこないかなーにいちゃん、今日帰って来ないなら料理冷める前に全部食べちゃっていい?」


「兄貴のおかげで食っていけるんだから感謝して我慢しろ」


「はーい」


 俺も夏希もきっと明日には戻ってくるだろと思っていた。


 だが。


 多夏哉は2日経っても帰って来なかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る