第11話

「おはようございます公平さん、今日はいい天気ですよ?」


 朝、可愛らしい声で目を覚ます。


「勝手に人のベッドに入って来るのはやめてくれないか?」


「はい、嫌です!」


 矛盾してる返事だ。


 それと朝はまずい、まだまだは現役だ。


「どうしました?」


「何でも無いからとりあえず早く出て行って欲しいんだが」


「やっぱりここにいた!こーへーの部屋には勝手に入らないって約束でしょ!」


「ですが公平さんが入って来ていいと」


「こぉーーへぇーー!?」


「そんなこと言ってないぞ」



 こんなことになった理由。

 そう、朱鷺井凛花は何故か竜胆家で暮らすことになっていた。



──絶対に公平さんの側を離れません!

──こーへーはうちの大切な家族なの!



 どちらも譲らず結局凛花が竜胆家に居候することになった。

 それを許可した多夏哉も懐が広すぎる。

 まぁ俺を受け入れてくれたくらいだし当然と言えば当然だが。

 婚姻届については何とかはぐらかした、というか俺のサインが入って無かった時点で約束をしたかは怪しい。


 キッチンに立ち、適当に糠漬け、卵焼きと味噌汁、白飯と銀鱈焼きを出す。


「公平さんのお料理こんなに美味しいだなんて初めて知りました」


「へぇー、こーへーの料理食べるの初めてなんだ。私はずっと前から毎日3食食べてるけどねー!」


「そうなのですか?なら私は毎日5食とおやつを準備していただけますか?訓練で消費カロリーがとても多いので」


「はぁ!?そんなのこーへーが大変でしょ!!ねぇこうへい!」


「簡単な夜食とか冷凍して作り置きならあるしそこまでは……それより塔の攻略はいいのか?」


 夏希の目が怖い。


「大丈夫です、千塔攻略団は退団して来ましたから。そもそも公平さんのいない攻略団に価値はありません」


 千塔攻略団、確かダンジョンを攻略する為に世界中からもう1人の俺が集め結成した団体だ。


 千塔攻略団が結成されてから攻略団全体で50以上の塔が攻略されたことからその実力は本物なのだろう。


「主力2人が抜けたら攻略は大変なんじゃないか?」


「そもそも攻略団には私達を嫌う人も少なくありませんでしたし、他にも優秀な方はいます。私は公平さんと一緒にいる為に千塔攻略団にいただけなのでこれ以上いる必要はありません」


「でも、学校はいけよ?」


「私、これでも天才最年少準特級冒険者ですよ?学校行く必要ありますか?」


 あるな、こんな美少女がいつも側にいたら俺の身が持たない。


「ですから一緒に……ちょっと夏希さん何をするんですか!」


「邪魔だって言われてるんだから私と一緒に学校にい、く、の!」


「あ、こ、公平さん助けてください!!」


 そのままずるずると引きずられて行く凛花。


「五月蝿いもんだな。朱鷺井の転入処理は済ませておいた、最初は騒動になるだろうが俺がなんとかするしかないからな」


「本当に助かる、それより時間大丈夫か?教師が生徒より遅いなんて馬鹿にされるだろ」


「おっと、じゃ行ってくるかね」


 多夏哉も家を出て俺1人。


 さて、いつもの家事……の前に。


「隠れてないで出て来いよ、人の家に勝手に入るのは犯罪だぞ」


「…………」


 返事はない。

 完全に独り言になってしまっている。

 だが俺にはわかっていた。


「3秒やる、3、2……」


「流石ね、降参よ」


 前なら誰かが隠れていてもわから無いが、今は違う。


 人の気配、完全に姿も音もしないが何故かわかっていた。


 誰もいない様に見えた場所から現れた赤髪、日本と北欧ハーフの顔立ちの美女。


「俺はその団長じゃないと言っても信じないよな」


「第一団長と対等以上に戦えるのは総団長以外にいないでしょ?総団長……いえ公平、記憶を失っているようだけど生きていて良かった」


 美少女は涙目になっていた。


「申し訳ないけど、君が誰かも知らない」


 美少女は少し驚いたような、しかしどことなく小悪魔的に嬉しそうな表情も見せる。


「そう……忘れてしまったのね……でももしかしたら私の名前で思い出すかもしれないわね、それなら私と……」


 どうやらもう1人の俺はかなりモテていたらしい。

 当然かもしれないが。


「私は天凱てんがい・シャスターチャ・夕凪ゆうなぎ、第四団長であり公平の幼馴染よ」

 

 当然俺にはこんな可愛い幼馴染はいない。

 男なら1人だけいたがそれも生粋の日本人だ。


「すまないが、全然覚えてない」


「気にしないわ、それよりいつまでここにいるつもり?攻略の時間は残されてないのよ?」


「そんなことはないだろ、攻略されない限りは塔は崩壊しないんだからな」


「いいえ、それがそうでもないの。遅くても来月には外国から別の攻略団がやってくるわ」


「そうなのか?」


「自国の代表攻略団が失敗した場合は他国の攻略団を受け入れる、常識中の常識じゃない。神骸は大金で日本が攻略した国から買い取るみたいだけれど上手くいくかどうか……それにわ」


「1人死んだくらいで大袈裟だろ、それに俺には関係ない」


「無責任な事言わないで。神骸はそれだけの力を持ってる、何より1番公平がわかっているでしょ?」


 来月末というとあと1ヶ月半くらいだが……


「それに公平、私達を逃すときに最上層には《大切な物》》があると言っていたじゃない」


「……大切な物?」


 当然知らない。


「何かは知らないわよ?でもだからこそ今すぐに再攻略すべきじゃないかしら」


 大切な物、気にはなるが……


「すぐには決めれない。一度攻略に失敗したんだ、急いでまた行っても同じ結果になるだけだろう?」


「そんなこと無いわ、もしも攻略に参加しないのなら私達も強硬手段を取るしかないわよ?」


「脅しか?」


「そんなことしないわ、あなたにはね」


「夏希と多夏哉に何かするつもりか?」


「さぁ、でも必要ならあの2人の安全は保証出来ないわね」


「もしも、今の生活を邪魔するようなら……」


 俺はシャスに放り投げる。



「……!!」


 シャスターチャの額に汗が流れる。


 どこに誰がいるのかサーモグラフィーの様に遠くまで一瞬で判別出来た。

 そして相手に気付かれずに近づくこともだ。


「やっぱり変わらないわね……貴方は間違いなく公平よ。今日は大人しく帰るわ、怒った公平なんて相手にしたく無いもの」 


「待て、俺のことを知るのはお前以外いるのか?」


「さぁ?それが知りたいならここに来てみれば?それと私のことはいつもみたいにシャスって呼んで」


 シャスから何かが投げられると同時、周囲から全員の気配が完全に消える。


「……ふぅ」


 疲れた。


 スキルのおかげか団員の位置も一歩も動かず、一瞬で隠れていた団員から顔も見られずに武器を奪うことができた。


 記憶や経験無しの状態でこれだ、もう1人の俺はマジのバケモンなのは想像がつく。


 とりあえず大切な物についての話はそれとなく凛花に聞いてみよう。

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