第2話

「はぁぁぁぁぁぁあ!!」


 ナイフを思い切り振ると目の前にいた巨大な鳥の首が吹き飛んで行く。

 でも血は吹き出ずにその場に倒れるだけ。


「ごめんな、でも俺達が生きて行く為なんだ」


 ビクビクと痙攣する骨だけの鶏が完全に息絶えると何故か肉片に変化し、それに触れた瞬間跡形も無く消える。


「これでボックスに保管完了、後は……」


 俺は今、塔の中でモンスター狩りをしていた。


 何故かって?それは……


「よし、これで終わ……」


「こーへーおっじさぁぁぁぁぁぁん!!」


「うおぐはっ!?」


 爽やかな石鹸の様な香りと共に横っ腹に何かが突撃してくる。


「マジでやめてくれ!ギックリ腰になるから!?」


「大丈夫大丈夫!まだ30歳でしょ?お兄と同い年、まだまだ若いよ!」


「ならおっさん呼びはやめてくれ」


夏希なつき、英雄様に飛びつくなよ?また記憶が飛んだらどうするんだ」


「あ、ごめんごめん、これ以上記憶欠落したら死んじゃうしね」


「いや死なないが」


 あれから1ヶ月。


 俺は土手で出会った男、竜胆多夏哉りんどうたかやとその妹、夏希と共にダンジョンで狩りをしていた。


 結論から言えば、俺が神様の手違いで戻された元の世界とやらは全然元の世界ではなかった。


 千のダンジョン、スキル。


 まるでゲームの中の世界の様な現実世界パラレルワールドに俺は戻されてしまったのだ。


 最初のダンジョンが出現したのは2000年、元々存在した建造物を再構築するように現れたそれをゲームのように攻略しようとする人は多く、しかしその難易度に数年程100人規模のチームを組んでようやく攻略出来る程の難易度だった。


 だが、そこに現れたのが藤原公平、1だ。


そいつが1年で99のダンジョンを攻略したことで一躍英雄視されていたのだ。



「英雄様と同じ名前にしてからダンジョン攻略して記憶失うなんて馬鹿だよねー」


「……あ、ああ…そうだな」


 各ダンジョンにはいくつかの階層で構成され、今俺がいた東京スカイタワーは第634塔と呼ばれそこには魔物が溢れている。


 魔物とは言うが、そいつらの外見は犬猫鶏など元からいた生物が骸骨になった様な見た目で魔法の様な火や氷などを放ってくること、死んだらアイテムに変化することだった。

 その特徴から魔物を骸物がいぶつ、アイテムを骸片がいへんと呼ばれていた。


 塔も死んだら終わりではないのが救いで、一部の記憶とスキルを犠牲に脱出出来る様になっていた。


 つまり今の俺はという訳だ。


 顔も名前も専用スキルがある人に頼めば変えられるらしい。



「やった!今日も唐揚げ?こーへーの唐揚げ美味しいから毎日でもいいよ!」


「はいはいわかったわかった、だからって抱きつくな、臭いが移る」


「えーひど!ちょっと汗はかいてるけどそんな臭くないよ!」


「夏希じゃなくて俺がだよ、夏希はいい匂いだ」


「え…………」


 やばい、今のは流石に変態発言だったな。


「こーへーわかってる!美少女はいつもいい匂いしかしないんだよね!」


 ……バカで助かった。


 俺にやけに抱きついたり体当たりしてくるこの子はこの世界に戻った時に最初に話した男、竜胆多夏哉りんどうたかやの妹、竜胆夏希りんどうなつきだ。


 小麦色の肌と日焼けで色素の少し薄くなったショートヘアが可愛らしい。


 確か17歳と言っていたから高校2年、やけに馴れ馴れしいのは兄貴と同じ歳だからだろうな。俺も姉はいたが妹はいなかったので少し嬉しかったりする。


「多少は記憶を思い出したか?」


「いや、全然だな……」


「そうか、ま、気楽に行こうぜ!!」


 兄妹揃ってそうだがポジティブだ。

だからこそこの奇妙な世界に来た俺の救いになっていた。


 変な奴に出会っていたら騙されても死んでいてもおかしくなかった。


「今更なんだが、怪しいとか思わないのか?」


「怪しい?公平をか?」


「英雄と同じ顔と名前でいつまでいるんだってさ」


「そうだな……色々な理由で顔を隠したい奴はいるし、夏希も俺も家の事はめちゃくちゃ世話になってる。少なくともお前は悪い奴じゃないしと思ってるぜ」


「私もそう思うなー、だってこーへー変なことしてこないし」


 そりゃ兄貴の前で襲いかかる馬鹿はいないだろな、でも……


「……ありがとう」


 イケメンだな……やはり美しい筋肉を持つ者は心まで美しいらしい。


「じゃ、それじゃあ今日の報酬は俺:コウヘイ:夏希が4:2:4でいいな?」


「待て、それとこれとは話が別だ」


「あ!私はモモ肉がいいなー!こーへーはささみね?」


「いやササミは俺が貰う、コウヘイは内臓だ」


「1番面倒臭い所を押し付けるなよ!」


 と、そんな家族みたいな友人の様な関係で過ごしていた。


 前とは違う奇妙な日常、だが幸せな日々。

 これが毎日続けばいいなと思うのは当然だろう?


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