第3話

「ふわぁぁぁぁあ……眠ぃ……」


 翌日、寝ぼけ眼でなんとかキッチンに立つ。

 塔の1階層とは言えそれなりに精神も体力も使う。

 居候の身だし家事くらいは毎日欠かさないでおきたい。

 すると誰かが降りてきた。


「おはよう、飯はできてるぞ」


「おっす、もう完全な主夫だな、家計も大助かりだ」


 起きてきたのは多夏哉。


 悲しいことに俺が住んでいたアパートにはこの別世界では別な人が住んでいた。

 もう1人の俺は都内の超豪邸に住んでいるらしい。

 だからこうして竜胆家に主夫として厄介になっていた。


 竜胆家の両親はダンジョンで死別したらしく、2人は木造平屋で暮らしていた。


「……おはよー」


 髪ボサボサの夏希がよろよろとテーブルについて準備していた目玉焼きを白飯に乗せて食い始める。

 半袖ハーフパンツ、更に上着の下には下着、もといブラジャーはつけていないのは明白。


 赤の他人の前でそんな姿を晒す夏希に多夏哉が注意するのだが。


「あー、うん……」


 変化なし、朝は弱いらしい。

 俺が厄介になっている立場だしあまりいえない……眼福だしな。


「夏希、コウヘイがいるぞ?」


「へ?こーへー?…………ひゃぁっ!?」


 すると飛び上がって一目散に自分の部屋に戻る。

 一応は並の羞恥心はあるらしい。


「助かるぜ、あいつ俺の言うこと聞かないからなぁ」


「少しでも役に立ててれば嬉しい、少し傷つくけどな」


 おっさんだし気持ち悪がられるのは仕方ないか。


「傷つく……?ああ、なるほどな……」


 なんだ?


「そうだ、今日のニュース確認してねぇからテレビつけてくれるか?」


 スキルが使えるようになっても大半の家電製品は引き継ぎ使われていた。


 理由は簡単、スキルは体力や精神力を使うだからだ。

 塔が現れ、20年以上経った今でも家電製品を使う家庭は8割以上だとテレビで話していた。


「流行りのスイーツ店、天気予報、ダンジョン攻略情報……多夏哉は攻略者シーカー

養成学校の先生だよな?ならダンジョン攻略情報か」


「ダンジョン攻略情報は学校で独自に調査したものがある、ニュースの情報は割と適当だからな……それより天気が1番重要だ」


「天気?」


「ダンジョンは天候で出てくる奴が様変わりする、天候が崩れていればそれだけ面倒な奴増えるからな……って、説明したはずだろ」


「……だっけ?」


 俺は1階層しか行かないからあまり覚えてはいない。


「低階層なら覚えなくても全く問題ない、どのダンジョンも全て100層構成なのは知ってるだろうが、30階層以上の中階層なら絶対に必要な知識だ。今日は晴天、ならダンジョン講習が出来そうだな」


「生徒が行くの危険じゃないか?」


「その為の先生だ、公平も行くか?」


「……遠慮しておく」


「そうか?第634塔に行けるのは最後になりそうだから記念にと思ったが」


「最後?攻略されるってことか?」


「英雄の公平様が今100階層にいるらしい、今日には攻略されるだろうしそうなれば塔は崩壊だ」


「ってことは、骸物狩り放題も今日が最後ってことか!?」


「まぁそうなるな、それに崩壊するのは攻略から1週間後で……」


 それはまずい。

 あそこで狩れるニワトリっぽい骸物から取れる栄養満点の肉は噛むたびに旨み溢れる最高の食材だ。

 養殖は高いし、何より狩れば無料だ!


「行ってくる!弁当は黒い方が多夏哉、赤い方が夏希だからな!」


「おい!話聞いてたか!?」


「りょかーい、頑張ってねー」

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