第9話
「次が3階層か」
ダンジョンに入り、難なく2階層への階段前までは来れた。
ここまでは問題ないがここから先は未知の領域、不安もあるが少しワクワクもする。
……ていうか俺エプロン付けっぱなしだ。
「よし、行くぞ………え?」
この先に行くのは初めてだが何故か見覚えがあった。
それだけではなくダンジョン自体が半透明に見え、どうすれば3階層に行けるかどんな敵がいるか、何が弱点かまで何故か全て理解していた。
スキルが影響しているのだろうが今は戦うより3階層に急ごう。
「……あれか?」
地面に落ちていたのは光り輝く鱗の様なもの。
かなり目立つが俺以外には認識されていないのか?周囲を確認して誰もいない事を確認し拾ってみると。
『神骸【無】』
どうやら名前からして間違いない様だ。
「よし、後は帰って……」
瞬間、奇妙な感覚に襲われる。
背後から誰かに斬りつけられる光景が脳の中で再生される。
咄嗟にしゃがむと、俺の頭上を銀色の何かが通り過ぎて行った。
距離を取る為に地面を蹴ると体は急加速し一瞬で20m以上飛び退く。
「うわっ!」
頭の上を通り過ぎたのは剣だった。
それを振るうのはモンスターでは無かった。
顔を隠した攻略者だ。
俺の謎の力でも誰かわからない。
「やば、逃げ……あれ?」
なんか……動きが遅い。
10秒経っても微動だにしない、わざとやってるんじゃないかと思うくらいだ。
それからしばらく警戒しても変わらないのでナイフを構えながらゆっくりと近づいてみるがそれでも変わらない。
隠していたフードをめくってみる。
「朱鷺井凛花!?」
朱鷺井凛花がそこにいた、でも何故だ?
多分背後からしか見られてないから目は合ってない、顔は見られてないよな?
とりあえず適当にエプロンで顔隠すか。
それにしても全く反応しない。
馬鹿にしてるのか?ならこうすれば……
「そんなことしてると胸触っちゃうよー?」
うん、我ながら最低だが触る気など毛頭ない……本当だからな?
こうすればさすがに……いや、動かない。
「馬鹿にするのもいい加減に」
そう言った瞬間ぎろりと目がこちらを向く。
「すいませんでしたぁぁぁぁあ!!」
何か攻撃が来るんじゃないかと朱鷺井を突き飛ばそうと手を伸ばす。
──むにり
……むにり?
俺の両手に柔らかいもの。
つまり……おっぱいだ。
「でっっっっっっっっっっっっっっかぁ……あ、いやその……」
急に凛花の動きが俊敏になり、その顔は真っ赤なまま何かを呟いていた。
「
無数の氷剣が周囲に現れ、あの一直線に俺に向かってくる。
逃げ場は無いのだが、俺は動揺していなかった。
それは氷剣がゆっくり俺に向かって来ていたこともあったが、氷剣のうち1つだけぼんやりと赤い光を放っていたものがあったからだ。
まるでこれを斬れと言わんばかりにだ。
何となく氷剣のそれを斬ると氷剣が砕け散る。
次も、次も、そのまた次も同じ。
途中でナイフが限界を迎え折れてしまうが、砕け散った氷剣の欠片で同じ様になぞるとそれだけで同じ様に氷剣は砕け散る。
数百は同じ事を繰り返したと思った時、周囲に1本の剣もないことに気がついた。
「嘘、あの数を一瞬で……」
『瞬神の加護がLv5になりました』
急にメッセージがあらわれた、今のでレベルアップしたらしい。
一瞬というが俺には少なくとも10秒は剣を斬り続けていた気がするが、無傷だし疲れていないのも妙だと思った。
「……公平、さん?」
「え…………?あっ!!」
顔を隠していた布がどこかに行ってしまったことに気がつかなかった。
しばし目が合うが朱鷺井は微動だにしない。
これは帰れるチャンスか……?
「じゃ、じゃあ俺は失礼します……ぐはっ!?」
逃げようとする俺の腹に飛び込んで来る朱鷺井。
「良かった……本当に良かった!生きていらしたんですね……!」
「あ、いや、それはその人違いでちょっと離してくれると……」
「いいえ!今度は絶対に!絶対に離しません!」
……これはすごいまずい、よな?
号泣する朱鷺井の頭を撫でながら、俺はどう多夏哉と夏希に説明するかひたすら頭をフル回転させていた。
異世界から戻ってきたらもう1人の俺が英雄になっていた、そして勘違いした美少女達が集まってくる。 耳折 @mimioreneko
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