第6話
「こーへーちかれたぁぁぁぁぁぁ!!」
帰ってきた瞬間、俺に抱きついてきたのは夏希だ。
汗でシャツが肌に張り付き下着が……
「さ、先に風呂に入ったらどうだ?」
「そうしよかなー……あれ、この匂い……もしかして今日はステーキ!?」
換気扇を回しても家の中に充満するニンニク醤油の香ばしい香りですぐにバレてしまう。
「そうだ、こっちのアイテムをそっちに移動しておいてもいいか?」
「もちろーん!」
アイテムボックスから下級骸片【鶏】をタッチ、そして夏希に送るを選択する。
「来たよー、これでいいんだよね?」
「ああ、これでしばらくはステーキはタダだな」
「本当!?やった!!じゃ風呂入ってくる!!」
多夏哉にも渡しておきたいがダンジョンに潜ると言っていたし多夏哉が戻ってくるのは明日だろう。
「入ったか」
夏希が風呂に入ったのを確認してやってきたのは洗濯機の前。
……決して覗きにきた訳ではない。
この隙に洗濯を回すためだ。
「
洗濯機の中が水で溢れると小さな龍がくるくると泳ぎ始め、そこに洗濯物と洗剤をぶち込んでゆく。
単純な魔法なら扱えるしこう言う所で電気代と水道代を節約しないとな。
「っと、これは……」
黒い洗濯ネットに入った洗濯物。
それは夏希の下着やらなんやらと特にプライベートなものを入れたものだ。
本当なら一緒に洗濯するなと言われてもおかしくない年頃だが、一応信頼されているらしく任されていた。
「破れてるな」
破れて中の下着が出てきてしまいそうだ……縫って直しておくか。
そう思い、黒い洗濯ネットの一部を摘んだ時だった。
「…………え?」
洗濯ネットだと思ったそれはするすると伸びてゆくと、現れたのは……黒いTバック。
……落ち着け俺。
とりあえず元に戻そう、そうすれば何も見ていないのと同じだ。
だが、夏希がこんな下着を何故持っているんだ?
いつもの夏希からは想像出来ない。
あまり深入りする必要は無いかも知れないが夏希は可愛いし純真無垢だからもしかしたら悪い男に騙されて……それは考えすぎか?
でもこんなものを普段使いするとは考え辛い。
まさか、これを穿いてあんなことやこんなことを……
「……こーへー」
「うわあっ!?」
風呂の扉から顔を出した夏希が俺を見ていた。
「いやこれは洗濯ネットが破れていたから中身が出ただけで決して」
「…………」
「……すいません、でも信じてくれ」
「そ、そーだよね!こーへーが変なことする訳ないもんね!そうだ!食事ってもう出来てる!?」
「も、もちろん!早く飯にするか!」
そうして急いでリビングに戻ろうとした時、エプロンをくいとつかまれた。
「……こーへーはああいう下着って嫌い?」
髪が濡れ、甘い香りといつもとは違うしおらしい夏希に不意に胸が高鳴る。
「……ええと、あー……うん、多分、嫌いじゃない……と思う」
「…………」
無言。
「……もしもさ、もしもあれをこーへーの為に買ってきたって言ったらどうする?」
あれを俺の為に?どう言うことだ?
それに本当にこの雰囲気は何なんだ。
急にこんな違う一面を見せられてしまうと何と対応すれば正解なのかわからない。
……童貞だし。
でも、2人だけのタイミング。
まさか……俺の勘が間違っていなければこの雰囲気は……
「こーへー、私達の為に頑張って家事とかしてるでしょ?」
「それは居候だし、これくらいしか他に出来る事はないからな」
「そんなこと無い!私もお兄もこーへーには感謝してる、でもそれだけじゃなくて」
夏希の顔は真っ赤に変わっていた。
「それでね……その……私、気づいたんだ」
目の前に夏希の顔。
「その、私、こーへーのことが」
『緊急速報、緊急速報』
「うわあああっ!?」
「ひゃぁん!?」
何故か突然ステータスが開いた。
色んな意味でマジで心臓が爆発するかと思った。
「な、何だろうなこれ」
「そ、そうだね!もしかしたら塔攻略の速報かも!」
夏希が慌てて話を逸らすのに乗っかりステータス画面から!マークをタッチしてみる。
ステータスはスマホの様に情報収集のツールにもなるらしく、こうやって緊急時には連絡が来ることもある。
「第634塔攻略速報?もう攻略したってことか、早いな………………え?」
「どーしたの?」
「…………嘘、だろ」
その速報に、攻略なんて文字は無かった。
代わりに俺の目に飛び込んで来たそれは……
『特級冒険者、藤原公平第634塔にて死亡確認』
死亡。
この世界に俺が1人だけになったことを伝える2文字だった。
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