「リリアナの影武者」
(そういえば、この国の名前を聞いていなかったな……)
エルは、近くを通りかかった男性に声をかけてみることにした。
「すみません」「ん?」
男性は振り返ると、不思議そうにエルの顔を見つめていたが――次の瞬間には目を大きく見開いて驚きの声を上げた。
「なっ!?そっ、そっ、そいつはもしかして……」
「どうかされましたか?」「いや、実は俺の知り合いにあなたと同じ顔のやつがいてな……」「そうなんですか?」「ああ。
まぁそいつも男だがな」「へぇ~」「おっと、すまない。
少し取り乱してしまったな」「いえ。
お気持ちはよくわかりますから」
「そうか。
ありがとう」「それで、もしよろしければお名前を聞かせていただけますか?」「ああ。
俺の名はゼノスって言うんだ」
「ゼノスさんですね。
僕はエルと言います。
それで、一つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
●ゼノスが語ってくれたこれまでの経緯は、リリアナの母親であるララから聞いたものと大差はなかった。
しかし、一つだけ異なる点があった。
それは、リリアナの父親についてだった。
(リリアナさんのお父様か……会えるものならば会いたいものだな……)
エルはその日一日、リリアナの家族が暮らす家で世話になり続けたのだが――翌日、ゼノスは仕事があるとの事で帰ってしまった――そして――その翌日に事件は起きた。
◆ 朝早くから、リリアナの悲鳴が家に響き渡った。
それを聞いたエルは、居ても立ってもいられず急いでリリアナのもとへと向かった。
すると――リリアナが必死の形相で訴えかけてきた。
一体何が起きたのだというのだろうか?――リリアナは、まるで恐怖を感じているかのように顔を歪めている。
エルが事情を尋ねると、彼女は信じられない言葉を口走った。
エルは、彼女の言っている意味を理解することができなかった。
(どういうことだ……リリアナさんによく似た女性だと……?)
エルはリ
「なぁリリアナ。
お前に双子の姉妹がいるなんて話は聞いていないぞ?」
「ええ。
私に双子はいませんよ」
「それじゃあ、他人の空似だったのか?」
「いえ、間違いなく本人でした」
「なに? それじゃあ、いったいどうやって見分けたんだよ?」
「私は、相手の魔力量を見るだけで相手がどんな魔法を使えるのか分かるんです」
「マジかよ……」
「はい。
それで、彼女から感じ取った魔力量がリリアナのそれと全く同じだったので、私はすぐに彼女がリリアナだと確信したんです」
「ふむ……」
「それで、彼女には魔力量以外の何か他の特徴でもあったのか?」
「いえ、魔力量以外は特に変わったところはありませんでしたよ?」
「なるほど。
それじゃあ、リリアナとそっくりなのは外見だけだったってことか……」
「恐らくそういうことになると思います」
(でもまぁ……よく考えれば、見た目が似ているだけの別人だという可能性もあるわけだしな……)エルがそんなことを考えていると――。
突然ドアが激しくノックされた。
「リリアナ!いるんでしょ?!」
「ええ」
(なんだか随分と慌てた様子だが……)
「開けてちょうだい!」
(これは……まさか……)
「おい! ちょっと待て!」エルは慌てて止めようとしたが、すでに手遅れであった
「リリアナ!無事だったのね!」リリアナの姿を目にした女性が勢い良く抱きついてきた。
「ええ。
心配かけてごめんなさいね……」
「ううん。
こうしてまた会うことができたんだから、謝る必要なんかないわ!」
「ありがとう。…………それで母さん。」「あらら……。
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