困惑
「あのね……実は……私、妊娠していたみたいなの……それで、できればエルくんの子供が欲しいなって思って……ダメかな?」
「えっ!?」予想外の発言を受けて困惑するエルだったが、リリアナから子供を授かるということはとても喜ばしいことであると思い直した。
「はい。喜んで!」
エルが快諾すると、リリアナは嬉しそうに微笑んだ。
「良かった」
◆ その後、リリアナの体調が落ち着いた頃、エルたちは二人で街へ買い物に出かけた。
「見てみて!エルくん! 赤ちゃん用のベッドがあるよ!」
リリアナが指差す先には、木製のベビーベッドが置かれていた。
エルは、その可愛らしいデザインに思わず見入ってしまった。
「リリアナさん。
あれを買って帰りましょう」
「そうだね!」
◆ 二人が帰宅すると、早速ベビー用品の買い出しを始めた。
まずは、おむつを買わなければならないのだが――。
「どれが良いのかしら?」「うーん……迷ってしまいますね」
二人して真剣に悩み始めると――。
「あら、リリアナさんじゃないですか」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。盗賊団のボスだった。
「フゥーハハハ。やっと見つけたぜ。死ね!」
突如として現れた男が魔法を放つと――炎弾となってリリアナに向かって飛んでいった――。
(危ない!)咄嵯の判断で魔法を放った男を殴り飛ばすと――。「きゃああ!」リリアナを庇うようにして抱きしめた――次の瞬間――背中に強い衝撃を感じた――。(くぅ……)痛みに耐えながらも振り返ると、そこには杖を構えたリリアナの姿があった。どうやらリリアナが魔法で助けてくれたらしい――。
「大丈夫?」「はい。なんとか……」
エルは立ち上がると男の方を見た――。
(こいつらが誘拐犯なのか?)
「おい!貴様ら!リリアナさんに何をする気だ!」
「チッ!うるせえな!お前には関係ねえだろ」
「関係ないだと!ふざけるな!お前らのせいでリリアナさんは苦しんでいたんだぞ」
「はぁ!?知らねえよ。
お前はここで死ぬんだよ!」
そう言うと男は魔法を放ってきた――。
(クソが……どうすれば……)エルは、必死になって考えると――一つの策を思い付いた――。
(やるしかないか……)エルは、覚悟を決めると、魔法を受け止めようとした。
しかし、次の瞬間――。リリアナがエルの前に立つと、魔法を受け止めた――。
そして、リリアナが放った氷の槍によって男の体は貫かれた――。
「え?」
エルが呆気に取られていると――リリアナが振り向いて、優しく微笑んだ――。「リリアナさん……どうして……」「あなたが守ってくれたから……」「そんな……僕はただ……」「いいの。
私はあなたのおかげで救われたんだから」
「……はい」
エルは、泣きそうになるのを堪えて返事をした。
「リリアナさん……そんな!」
リリアナのお腹は盗賊が放った魔法に刺し貫かれていた。鮮血がピューっと噴き出ている。
「わたしは…もうダメ見たい。この子を頼むわ」
そういうと白目を剥いて動かなくなってしまった。「リリアナさん!しっかりしてください!リリアナさん!リリアナさん!リリアナさぁぁぁぁぁぁ」
リリアナの葬式が済んで十年がたった。エルは、リリアナとの間にできた子供を育てながら、冒険者として活動していた。
(まさか、リリアナさんの子供が僕の娘だったとは……)
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