第003話「スーファ×女 真澄×男」

「ところで……ずっと気になっていたんだけど」


 やや聞きにくそうにスーファが話しかけてきた。


「なに?」


 ちょっとだけ希望が湧いてわつぃは上機嫌だった。大抵のことなら笑って受け入れられる。


「その……聞いてどうかと思うんだけど……マスミってハーフ?」


 ハーフ? 50:50? そりゃ私は日本人同士のハーフですけど、それが何か?


「いや、せっかくカッコいいのに女装とかしているから……そういう趣味の人かなって……」


 すごく言いにくそうにスーファが言う。

 

 ――失礼な! 私はれっきとした女の子だ!


 花も恥じらう十代のJKを前にしてなんてこと言うんだこの男女は!


「ちょっと! いくら何でも失礼じゃない!」


 私は怒りのあまり立ち上がっていた。いくら見た目がいいからって女の私を女装した男だって! 失礼にもほどがある。

 それにカッコいい!?

 それって誉め言葉? それとも女の子らしくないって意味?

 私は怒りのあまりこぶしを握り締めていた。

  

「ごめん! ホントにごめん!」


 スーファは本当にすまなそうに謝ってきた。

 まったく、非常識にもほどがある。


 ――それにしても……


 私は自分の拳を改めて見つめる。こぶしを握り締めた時――自分でもびっくりしてしまうほどの力を感じた。

 武骨だがきれいな手だ――そうまるで――――――――――男みたいな――――――――


「…………待って…………」


 ――なんかおかしい。なんか変――


 私は自分の身体を触りまくる。


 ――ない!


 慎ましいながらもそこはかとなく成長していたはずの私の胸が――ない!

 そして――

 この股の間に先ほどから感じる違和感は――


「ス、スーファ……」


 私は涙を流しながら目の前の美少女を見つめる。

 すがるように、救いを求めるように。


「私って……もしかして……男に見える?」


「あ……ああ。そう見えるけど……」


 先ほどの私の態度を警戒してか、スーファは遠慮がちに頷いた。

 そして、おずおずと手鏡を渡してくれる。

 そこには――

 思わず「ほぅ♡」となってしまいそうな程の美少年が鏡の中にいた。

 

「あああああああああああああああああああああああああ! うそだああああああああああああ!」


 ケダモノのような咆哮――私だった。

 私は――男になってしまっていた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


【ジェンダー】 

 性同一性。 社会科学の分野において、生物学的性に対する「社会的・文化的に形成された性」のこと。 男性性・女性性、男らしさ・女らしさ。 社会学者のイヴァン・イリイチの用語で、男女が相互に補完的分業をする本来的な人間関係のあり方。最近では男子生徒がスカートを、女子生徒がズボンを……というように選択できる学校もある。

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