第010話「勇者スーファ ③」

「……そんなわけで、オレは勇者になった」


「はあ……」


 どうも納得いかないが、聖剣を抜いて勇者になったということらしい。

 それからは、国王の下まで案内され支度金やら何やらをもらって――


「そして……逃げ出した」


「はい?」


 逃げ出してどうする勇者。


「いや、ダメでしょ。勇者が逃げ出しちゃ!」


「いや、だってさぁ。魔王を倒した後の勇者なんてろくな目に合わないと思わないか?」


「そう?」


 魔王を倒す勇者。その図式はゲームの世界でも王道ではないだろうか。何かとゲームの話をしたがるスーファにしては珍しい反応だった。


「ほら、ウインダ●アみたいに……」


「なんですかそれは?」


 スーファの意味不明な発言。

 魔王を倒した後の勇者なんて考えたこともなかった。


「魔王を倒したら勇者なんてお払い箱だよ」


 そんなものだろうか。


「えっと、じゃあアランたちとは?」


 そう聞くと、国王に会いに行く時点で別れたということだった。


「時々一緒に冒険に行くこともあったかな……」


 まったくの音信不通というわけでもなかったらしい。

 しかし、勇者に選ばれて逃げ出すとか――ないわ。


「結局、逃げてる途中で捕まって見張りつきで解放されたけどね」


「その見張り役の人は?」


「途中で巻いて逃げた」


 おいおい。それでいいのか。


「聖剣返上して勇者辞めればよかったのに」


 できませんと言ってしまえばよかったのだ。


「マスミならNOって言える?」


「…………いや、無理です」


 私は察しと思いやりの「NOと言えない日本人」なのだ。

だからスーファは魔王討伐を引き受けたのだろうか。


「まあ、オレとしては魔王に勇者として会ってみるのも悪くないと思っているんだけどな」


 それはやはり世界平和のためなのだろうか。

 突っぱねたフリして世界を救うとか……なかなかカッコイイこというじゃない。


「聞きたいこともあるし」


 聞きたいこと?

 

「いやあ、「世界の半分をお前にやろう」とか言ってくれるのかな……って」


 まだ、世界征服も果たしていない魔王のセリフにしては大ぶろしきを広げたものだ。


「それに世界を征服して何するの? とか質問してみたいし」


 そんなくだらない事のために魔王に対峙する勇者もいないだろう。そんな勇者に魔王としても退治されたくはないだろう。


「あの……魔王って本当にいるんですか?」


「ああ、魔王はいるよ。正確には魔人族の王だけどね」


 ん? 魔王とは違うのかな?


「でも、本物じゃない……あんなのは本物の魔王じゃない」


 スーファの言葉はどこかあいまいだった。

 


 ◆ ◆ ◆ ◆


【ウインダリア】

 1986年に公開されたアニメ映画。細かな内容はネタバレになるので割愛。一国の英雄となった若者の堕落と悲劇の物語。新居昭乃さんのED曲「美しい星」は今でも名曲です!


【NOと言える日本人】

 1989年のエッセイ。「「NO」と言える日本」とソニーの会長である盛田昭夫と作家である石原慎太郎によって共同執筆された。カッパ・ホームス出版。


【察しと思いやり】

  エヴァンゲリオン。葛城ミサトのセリフ「日本人の信条は察しと思いやりだからよ」


【世界の半分】

 ファミコン版ドラゴンクエスト。ラストボスである竜王のセリフ「もし わしの みかたになれば せかいの はんぶんを ○○○○に やろう」※○○○○には主人公な名前が入る。この誘いに同意するとバッドエンドとなってしまう。


【世界征服】

 様々なジャンルのアニメ、ゲームなどで世界征服を目論む悪の組織が登場するが、その真なる目的は不明。神坂一の小説「スレイヤーズ」にて「世界征服したら、なんだか楽しそうじゃないか」的なセリフがあったような気がするが(※詳細不明)案外何も考えず「今の目標はこれで!」みたいな感じではないのだろうか。

 

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