第009話「勇者スーファ ②」
「魔王討伐って……私にできるんですか?」
ようやく周囲が落ち着きを取り戻した頃。
私は食事を楽しむスーファにこっそりと聞く。
そういえば、ゴブリンの時にも魔王がどうとか言ってなかったか。
「さあ、今のままじゃ無理なんじゃないかな」
スーファの答えはそっけない。
「そんな無責任な……」
少なくとも周りはスーファが魔王を討伐すると信じている節がある。できるならできる。できないならできないとはっきり伝えるべきではないのだろうか。
「オレはな、NOと言えない日本人なんだよ」
何すがすがしい顔して軟弱なことを言っているんだ。
「だいたいなあ、魔王を倒すのは勇者の仕事なんだよ」
「でも、周りの人たちがスーファのこと勇者だって……」
「この世界に来て……」
どこか遠くを見つめながらスーファが過去回想に入っていく。
「最初に立ち寄った村で聖剣を抜いちゃった♡」
「……………………はい?」
◆ ◆ ◆ ◆
「ははは――抜けちゃったんですけど……」
オレは手にした剣を持ったまま立ち尽くしていた。
ここはオルソンという村。
なんでも過去に英雄的活躍をした勇者の生まれ故郷だとかで有名な観光スポットとなっている村だ。
「あははは……抜けちゃいましたね!」
お酒が入っているのか兎人族の少女ミーシャが赤ら顔のままひきつった笑みを浮かべていた。
「これって……抜けないって有名な剣ですよね? 勇者にしか抜けない伝説の剣だとか……」
「いやいやいやいや。これは困ったことをしてくれたねえ」
原因となった言い出しっぺのアランが他人事のように言う。
オレとアランたちとの出会いは一種間ほど前のことだった。
どういった理屈でかこの世界に転移してしまったオレは冒険者だと名乗るアランたちに拾われた。
剣士のアラン、弓使いのオットー、魔法使いの兎人族ミーシャ。三人の冒険者グループだ。
オレはこの三人と森の中で出会い。しばらく一緒に旅をすることになった。
正直右も左も分からない。この世界が何なのか、元の世界に変える手段はあるのか全く見当もつかななった。
この世界に来た最初の日、オレが初めて出会ったのは獣を食らうゴブリンたちだった。
――この方々とは身分も種族も違いますわ!
気配を殺しその場から逃げ出せたオレのスニーキングスキルに感謝したくらいだ。
次にであったのはどう見ても「野盗」な方々。
――この方々とは身分も職種も違いますわ!
この時不用心に飛び出さなかった自分に感謝!
そして、三度目に出会ったのがアランたちだったのだ。
――悪い奴らではない。
あってすぐにオレに食べのをくれた。
オレ、スーファ。食べ物くれる人いい人。トモダチトモダチ。
そこは分かっている。
しかし――
「よし。逃げよう!」
聖剣を抜いたままのオレの肩に手を置いてアランが輝く笑顔を見せた。
少なくとも、聖騎士見習の青年のする笑顔ではない。
「いやいやダメでしょ」
聖剣とはいわば世界の宝、人類の宝。
それがオレの手に……あー、誰かに譲ってしまいたい。
「聖剣●説2じゃないんだから」
冒頭で聖剣抜くとか――ないわぁ。
「お前たち……何を!?」
たまたま通りかかった村人Aがオレたちを見て驚いたように声をかけてきた。
「お前たちは今日来た冒険者だな!」
村人Aはオレを見、手に持った聖剣を見、手をメガホンにしていきなり叫んだ。
「聖剣が! 聖剣が抜かれたぞぉぉ! 勇者の誕生だぁぁぁぁ!」
おいおいおいおい。
こうしてオレは村人に囲まれ勇者に祭り上げられた。
まあ、見た目麗しいオレが聖剣を抜いたのだ。さぞかし絵になっていただろう。
こうしてオレは勇者になった――なってしまった。
常軌を逸した村人たちの喜びよう。
違いますとは言えない。
人違いですとも言えない。
冗談でも聖剣と刺さっている岩の間に油を注したら抜けました。などとはとてもじゃないが言えなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
【スニーキング】
「隠れる」の意。メタルギアソリッドで初めて生まれた概念。1987年。コナミから発売されたMSX2用のステルスゲーム。ファミコンへと移植されたがその内容はのちに劣化版と称されるものだった。スーパーファミコン版はなく次に発売されたのはPS1である。初代のMSX2版はPSVitaのメタルギアソリッドHDエディションにおまけとして収録されている。ただ「戦う」だけでなくいかに敵に「見つからない」か、に主軸を置いたこのゲームは世界的大ヒットとなる。「段ボールに隠れる」はこのゲームが発祥?
【ファイナルファンタジー6】
ファイナルファンタジーに仲間に「ガウ」という野生児がいた。幼い頃に親に捨てられモンスターと共に育った彼は「オレ ガウ なかまなかま」みたいなしゃべり方をしていた。
【聖剣伝説】
スクウェアより発売されたゲームボーイ用ソフト。ファイナルファンタジーの外伝としてスタートした。スーパーファミコン版は「聖剣伝説2」リングコマンドや三人のマルチプレイなど斬新な機能が満載のソフト。たまたま遊んでいて落ちたところに聖剣が刺さってました。という「ホントかよ!」というところからストーリーは始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます