第007話「始まりの町にて ③」
私は何度も魔法を習いたいとスーファに懇願する。
「まあ、魔法は適正とか色々あるから、今度ギルドで確認してもらおう」
しぶしぶと(本当にしぶしぶだった)スーファはようやく諦めてくれた。
よし、とりあえず剣で戦うことは回避できそうだ。
「なあ、重装備の興味ないか?」
「ないです!」
私みたいなか弱い少女が重装備なんてできあるはずがない。
「それにしても……」
私は焼野原に貼った一帯を見やる。
「威力ありすぎません?」
「そお?」
いやいや。おかしいでしょ。
「師匠に比べればこんなものじゃないよ」
へえ。師匠とかいたんだ。
「じゃあ、その師匠に弟子入りすれば私も魔法使いになれますかね?」
「マスミが師匠の弟子に……」
その時のスーファの表情をなんと表現すればいいのだろうか。
恐れ――
「やめといたほうがいいよ」
「そんなに厳しいんですか」
ガクガクブルブル。
スーファの身体がマナーモードみたいに震えだす。
「そそそそそ、そうだね。難易度で言ったら超魔●村をさらに難しくした感じかな……」
「はあ……?」
時々スーファの言葉が呪文のように聞こえてしまう。
「魔法なんて自分で開発するとかしなければ難易度はそれほど高くないよ」
開発とかできるんだ。まあ、私にそんなスキルはない。
「そうなの?」
「うん。オレも最初にこの世界に来た時には戸惑ったけど、初級であれば誰でも扱えるさ」
そんなに日常的なものなのだろうか? いまいちスーファの基準が理解できない。
「それ以上になると素質が必要になるけどね」
魔法にはやはり素質が必要。どうやらそういうことらしい。
「まあ仕方ない。とりあえず町に戻りますか」
よかった。よく分からないスパルタチックな戦闘から解放される。
「これじゃあ、いつになったらランクアップすることやら」
「ランクアップって何ですか?」
私が質問するとス-ファは心底驚いたようだった。
「冒険者ギルドで話を聞いてなかったの?」
うんと頷くとスーファは少しだけ眉間にしわを寄せていたが諦めたようにため息をつくと説明してくれた。
「いい、冒険者は様々な依頼をこなすことで報酬を得ている」
うんうん。と頷く。
「もちろん、ゴブリン退治だけじゃ生活なんてできない」
だから、魔物の素材なんかを売って生活費の足しにする。
「依頼料の高い依頼は基本的に難易度が高い」
ゴブリンだけでなく、さらに危険な魔物の討伐依頼なんてものもある。
「そんな難易度の高い依頼に初心者の冒険者を送り込んだりしたらそれこそ目も当てられないだろ」
まあ、ギルドとしても下手な新人を送り込んでは評判を落とすばかりでなく、被害を拡大してしまう危険もあった。
「だから、冒険者ギルドにはランク付けの制度があるんだ」
スーファは私の胸を覗き込んだ。
「えっ、ちょっと……何?」
美少女のスーファに間近に迫られてどぎまぎしてしまう。
中身が男の子とかそんなの関係なしに道の真ん中でぐいと迫られるなんて。
スーファが手を伸ばした。
白くてほっそりとした手が私の頬に当てられた。
「こんな……」
人通りの真ん中で、それはちょっと困るっていうか。
「あの……できれば人通りのないところで」
何を言っているんだか私。
「? ほら冒険者ギルドでもらったプレート」
そんな私にかまわず、スーファは私の首にかけられたプレート付きのネックレスを持ち上げる。
「これでランクが分かるんだ」
何も感じていないのかスーファは「ん?」と私を見ている。
「そ、そうね。これで冒険者がどれだけの実力かわかるんだね」
私のプレートは青銅。
今後経験と実績を重ねるごとにランクアップしていくということだった。
ランク的には青銅(ブロンズ) → 鉄(アイアン) → 白銀(シルバー) → 魔法金属(ミスリル) → 希少魔法石(オリハルコン) → 神王石(アダマンタイト)となる。
「まるで聖闘士●矢みたいだろ」
おお、ここで共通のキーワード発見。
「ああ、アニメで見ました!」
その時、スーファの目がきらりと光った。
「そうか……まだ続いているんだ」
「いえ……」
そういうわけでは――と言いかけてやめた。なんだかキラキラした目で遠くを見つめているスーファになんと言っていいのか分からなかったからだ。
「そういや、アニメでは漫画ではなかった聖闘士もいたっけな……星●の流星拳とケ●シロウの北斗百裂拳――どっちが強いんだろうって夜も寝ないで悩んだっけな……」
などとブツブツ言いだしたのは見なかったことにしておく。
街中でニヤニヤしながら妄想にふける美少女はちょっと近寄りがたい雰囲気があった。
「あの……今日は遅いんで宿に帰りましょう」
「アテナとユリア……どっちも可愛かったな」
あーだめだこりゃ。
◆ ◆ ◆ ◆
【重装備】
西洋の甲冑は重量だけでも30~40kgはあるとされる。金属製のものが主流で、鎖帷子などを含めるとさらに重くなる。見た目のわりに動きやすいということだが……RPGなどで重装備のまま旅をしている姿を見るが、実際は熱中症で倒れそうな気がする。
【超魔界村】
1991年発売。ファミコン版の時から難易度高めだった「魔界村」がさらにパワーアップしたもの。難易度もさることながら特定のアイテムがなければ最終ボスに挑むことすらできないという理不尽なゲーム。
【情報は命】
営業における宝とは! 「人・金・モノ・情報」である。
【聖闘士星矢】
1985年連載開始の車田正美による漫画。少年ジャンプで連載開始。世界的大ヒットとなる。12星座を黄金聖闘士の名前で覚えていれば十分こちら側の人間。主人公の星矢は初めは最下位の青銅(ブロンズ)聖闘士だが強敵を倒すごとにだんだんと強くなっていく姿がその当時の若者に大きな影響を与えた。メインで使う技は「流星拳」拳を音速で突き出す技である。
【北斗の拳】
「お前はもう死んでいる」で有名な漫画家・原哲夫と漫画原作者・武論尊の漫画。1983年連載開始。舞台は核戦争後の世紀末。世は弱肉強食の世界でその中で生き抜く男たちの物語。「お前はもう死んでいる」の他に「ひでぶ」「あべし」などの様々な名言(?)を生み出した。主人公のケンシロウは秘孔を突くことによって敵の肉体を爆散させ死に至らしめる。「マッサージ師って人殺せるんじゃね?」と思ったのは私だけではないはずだ。
【だめだこりゃ】
ドリフターズのリーダーいかりや長介のセリフ。フジテレビ系の番組「ドリフ大爆笑」で、コントの最後にカメラ目線で呆れ果てた顔で呟く台詞だった。これでコントは終了となるが、この時の何とも言えない雰囲気がその当時とても好きだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます