第006話「始まりの町にて ②」

 スーファは立ち上がる。


 ガザリ。


 茂みの物音にゴブリンが気づいたようだ。

 警戒するように一声鳴くと腰に差していた剣を抜く。

 ショートソード――さっきスーファが私に渡してくれたものと同じナイフだ。でも、その刀身は錆びていてとても衛生的とは言えなかった。

 破傷風とかになったらどうするの。

 心配しても始まらない。向こうも命がけなのだから仕方あるまい。


「んじゃあ、えいっ!」


 スーファは腰に下げていたワンドを取り出すと無造作にそれを振った。

 次の瞬間、ワンドの先から稲妻が放たれた。


 ダァァァ――――ン!!


 目の前が閃光で焼かれた。


「目がぁ! 目がァァァア!」


 まともに見てしまった。

 稲妻、雷鳴、雷――強力な電気の流れがゴブリンを貫いたはずだ。

 ようやく見えるようになると、周囲一帯が焼野原になってた。


 ――何この威力!


 ゴブリンの姿はなく、森であった辺りも荒れ平野になっている。


「い、今のって……!!」


「魔法だよ。初級の風魔法――雷系の雷撃呪文」


「MAHOOOOOOOOO!」


 魔法キター! これってファンタジーで土定番のやつですか!


「スーファは魔法使いなの!」


「あんまり……強くないけどね」


 剣関係ないじゃん!


「魔法が使えるんだったら、どうして私に剣を勧めたんですか?」


 私が質問すると彼女はエッヘンと胸を張った。


「だって、初心者冒険者といえば剣かショートソードでゴブリン狩りが当たり前でしょ」


 何がどう当たり前なのか分からないが、魔法という手段があるのならそれを使わない手はない。


「スーファ、私に魔法を教えて!」


「イヤ!」


 スーファはプイと横を向いてしまった。


「どうしてですか?」


 魔法を使えば簡単にゴブリンを倒すことができた。ならば私でもできるはずだ。簡単なことではないだろうけど、努力すればきっとできるようになる。

 しかし、スーファの次の言葉は私の予想をはるかに上回るくだらないものだった。


「だって……キャラが被るし……」


「……は?」


「だってほら、戦隊物だって同じキャラにならないように色分けとかキャラの性格付けとかしているでしょ、二人とも魔法使いとか……無理だよ」


 何が無理なのか。よく分からない。でも、くだらない理由だというのはよく分かった。


「キャラが被るなんてどうでもいいじゃないですか!」


 キャラが被ろうが要は勝てばいいのだ。


「うーん。でもなあ前衛がいないと攻撃食らった時とか痛いし……」


 スーファはまだ悩んでいる。こいつ……よりにもよってか弱い私を盾ににするつもりだったんかい!


 ◆ ◆ ◆ ◆ 


【破傷風】

 破傷風菌が傷口から体内に侵入し手足にしびれなどの症状を発症させる。場合によっては死に至る場合もある。


【えいっ!(魔法)】

 「ぷよぷよ」は1991年に開発されたコンパイルの落ち物ゲーム。落ち物ゲームの神とまで呼ばれる存在。広島を拠点とし、お土産として広島銘菓「ぷよまん」などが販売されていた時期もあった。連鎖を起こすごとに相手側への攻撃力が増す。主人公アルルは虫も殺さぬ顔をしながら「ぷよ」というスライムを無慈悲に殺戮してまわる悪魔の少女である。攻撃呪文「えいっ → ファイヤー → アイスストーム → ダイヤキュート → ブレインダムド → ジュゲム → ばよえ~ん(×無限)」(※通以降)現在、知的財産権はセガホールディングスが所有している。


【キャラが被る】

 ドラマや映画、アニメや小説に至るまで登場人物は多くなればなるほどに見分けが重要となってくる。キャラを作る際には視聴者や読者にはできるだけわかりやすい設定にすることが望ましい。特に少女漫画などであまりに美形ぞろいだと誰が誰だか分からなくなる時がある――男か女か、彼氏なのか友達なのかこいつは太郎なのか次郎なのかといった混乱が生じてしまう。(※個人差があります)


【前衛】

 戦略RPGにおいて盾役のキャラに敵を引き付けてもらい。その間に中距離、遠距離攻撃のキャラが攻撃を行う。回復系のキャラがいればなおいい。

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