第000話「プロローグ ②目覚め」
私は森の中で目を覚ました。
見慣れない植物、時折聞こえる奇怪な動物の鳴き声。
そこはワタシの記憶にあるどの森とも異なっていた。
――あれ?
おぼろげながらの記憶の断片。
――私は……
確か学校に行くために家を出たはずだ。
スマホで時間を確認しながら玄関を出たところまでは覚えている。
その後の記憶がない。
ちょっと、ここはどこなの?
誘拐された? でも、こんな森の中で放置するとかどんな誘拐なのよ。
異世界転移? そっちの方がそれらしいけどいきなりはないでしょ。
ライトノベル系ではよくあるけど、まさか自分の身に起こるなんて。
せめて携帯が使えれば……
スマホを見ると電波は圏外だった。
――今何時だろう。
陽の高さから昼ぐらいだと分かった。
――森で迷ったら川を探せ。
たしか、サバイバルの番組で見たことを思い出した。
とにかく森の中は方向感覚を失いやすい。例えば全く平坦な何もない場所でまっすぐに進んでいるつもりでも、人間は利き手の方に徐々に曲がって進んでいるという。方向を見失わないためには目標の山や木を目指せばいいというがこれだけ森が深ければ目標物を見つけることも難しそうだった。
――とにかく進むしかない。
ここがどこであれ誰かが探しに来てくれるということはなさそうだった。
それにしても――なんだか視点が高くなった気がする。
まあ、気のせいだろう。
「誰かいませんか――!」
叫んでみるがもちろん答えなどない。
空気が乾いているのだろうか――ちょっと声が低くなった気がした。
キキキキキキキキ!
虫の奇怪な鳴き声が響く。
ひんやりとした風がほほをなでた。
「本当に誰もいないの?」
もちろん、答えてくれる人などいない。
ガサガサガサガサ!
「――――――!!」
背後で何か大きな気配がした。
びっくりなどというレベルじゃない。もう私は何も考えられなくなってその場から逃げ出す。
「きゃー―――!」
もう、逃げ出したかった。
何もかもが嫌で放り出したかった。
だから私は逃げまくる。
振り向きもしないでとにかく走り続けた。
木の枝が顔や腕に当たったが気にしない。
「誰か! 助けて!」
私は泣き叫びながら無我夢中で森の中を走った。
――もう、嫌だ!
不意に地面の感覚が消える。
「えっ?」
遠ざかる草木、空がどんどん遠くなる。
――違う、落ちているんだ!
谷なのか崖なのか。
ああ、落ちたら死んじゃうのかな。
それとも今のこの状況は夢で、落ちたとたんに目が覚めるとか。
夢だったらいいな。
慌てて布団から起きだして、そのあと時計を見て「遅刻遅刻!」って叫ぶんだ。
そんなことを考えながら、私は闇の中に落ちていた。
◆ ◆ ◆ ◆
【異世界転移】
個人的に異世界転生よりも異世界転移の方が言葉的に好きだ。
異世界転生は冒頭に死んでからのスタート=人生のやり直しという図式が一般的だ。色々あるだろうが、やっぱり元の世界に戻りたい! というのもありなのでは?
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