第013話「スーファと不思議なダンジョン ①」

 一階の食堂で食事を済ませ荷物をもって宿を出る。


「おはようございます。昨夜はお楽しみでしたね」


 受付の宿屋の親父のセリフが気になったけどあえて聞かなかったことにする。


「ふむ。いつもながらおやじのセンスには光るものを感じる」


 スーファのセリフも意味不明だった。


「今日はどこに行くんですか?」


 また、町の外でゴブリン狩りだろうか。

 できればやりたくない。

 どうしてもというのであれば、せめて魔法で何とかしたい。


「う~ん。昨晩寝ながら考えたんだけどさ」


 嘘だ。昨晩のスーファはベッドに入ったとたんに寝入ってしまった。そりゃもう見事な寝入りっぷり。


「マスミはしばらくオレについて来いよ」


 黙ってオレについて来いとはなかなか粋なことを言うではないか。

 

「まずは、冒険者がどういったものかを体験して欲しい」


 まずは無料体験コースから。

 その後契約書にサイン――って、なんか怪しいバイトみたいだ。


「……というわけで、今回は友達のミーシャさんにきてもらいました! パチパチパチパチ!」


 スーファの明るい声とは裏腹に紹介された兎人族のミーシャさんはとっても困った顔をしていた。


「これって……特別手当出るんですよね? 立ってるだけでお金がウハウハ……ってホントですよね?」


 涙目になりながら訴えるミーシャさん。

 うわー、なんか無理やり連れてこられた感満載だなあ。

 今時そんな安っぽい宣伝文句でつられる冒険者なんていないだろう。

 いや、目の前にいた。

 

「――さあ、出発だ!」


「スーファさん!!」


 ミーシャさんの悲痛な叫びを無視して出発を宣言するスーファ。

 こうして、私の冒険者体験コースは始まった。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 馬車に揺られること半日。私たちはリューカという町に着いた。

 城壁に囲まれた街リューカ。


「すごい城壁……」


 見上げるほどの城壁はおそらくは高さ十メートルはあるだろうか。

 門には衛兵がいてしっかりと身元の確認をしていた。

 

「かなり厳重な警備ですね」


「そりゃダンジョンがあるからな」


 どういうことなんだろう? ダンジョンがいるから警備が厳重なんだろうか。

 私が不思議そうな顔をしているからなのだろう。ミーシャがダンジョンについて説明してくれた。

 彼女の説明によるとダンジョンとはやはり【迷宮】ということらしい。でも、私の知るダンジョンとは少し異なるようだ。


「ダンジョンは魔物の一種なんです」


 ダンジョンは【ダンジョン種】というタイプの魔物だということだった。しかし、この種の魔物は希少種で世界でまだ三体しか確認されていないということだった。


 三種のダンジョン種は――


中央のリューカ(2000年)

北のサンホク(6000年)

南のゲルーカ(10000年)


となっている。年代はそれぞれに大まかではあるが誕生してからの年数だった。一万年といえば一〇〇世紀。そんなに長くもの間存在し続けている魔物がいるということなのだ。


「このダンジョン説には色々とあって年代も内容もバラバラです」


 いわゆる諸説ありというやつだ。


「しかし、共通していることがあります」


 それはここリューカの街のダンジョンは比較的若く、初心者向けのダンジョンだということだった。


「明日から、ダンジョンに挑戦したいと思います」


「「……え?」」


 私とミーシャさんが同時に驚きの声を上げた。


 

「無茶です!」


「無理です!」

 

 ゲームのようだとは思わないがいくら何でも無茶すぎる。ダンジョンの中には宿屋も休憩所もないのだ。それはミーシャも同意見だったらしくガクガクと震えながら涙目になっている。


「初心者向け……と言っても最低五人パーティで挑むのが普通なんですよ!」


 ミーシャさんの言葉が正しければ、全く戦力不足だった。

 レベリングにしてもあんまりではないだろうか。


「ミーシャさんはダンジョンの経験は?」


 ミーシャさんは震えながら「一度だけあります」とか細い声で言った。


「大きなキノコのモンスターに耳をかじられそうになって……」


 そう言いながら、ミーシャさんは何かを思い出したかのようにスーファを睨みつけた。スーファはビクリとなった後、あらぬ方向を眺めてひゅーひゅーと口笛を吹く。

 

「そういえば……スーファさんて時々変なんですよ」


 何を? 今さら?


「私の耳に……輪っかを通そうとするんです」


 うん。意味不明だ。


「この輪っかの中に耳を通したら……」


「幸せになんかなりませんからね!」


 頭を抱えて耳を守る姿勢をとった。

 おーよしよし。

 私はミーシャさんの頭をなでなで。

 スーファを一瞥して――一言。

 

「ヘンタイ!!」


「はうっ!」

 

ショックを受けたようにスーファがその場に崩れ落ちた。


 ◆ ◆ ◆ ◆


【おはようございます ゆうべはおたのしみでしたね】

 ファミコン版。ドラゴンクエストでの宿屋の主人のセリフ。ローラ姫を救出し、一緒に宿屋に泊まると翌朝聞くことができる。妄想大爆発の一言。


【見事な寝入りっぷり】

 藤子・F・不二雄による日本の児童向けSF漫画「ドラえもん」の主人公「のび太」は0.93秒で昼寝をすることができる。個人的な見解だが「ドラえもん=万能ネコ型最終兵器」ではないだろうか。のび太のくだらないアイデアのせいでどれだけ世界が――宇宙が滅びかけたことか……しかし、実に怖いのはそれを実現させてしまうあのネコ型のロボットなのだ。


【黙って俺について来い】

 さだまさし「関白宣言」の歌詞の一節。

 SMAPの曲「黙って俺について来い」は1996年。


【安っぽい宣伝文句】

「これを持っているだけで宝くじに当たりました!」だの「このブレスレットを付けているだけで彼女ができました」だの、どう考えても怪しさ爆発なCM、チラシを見かけることがあるが、果たして実際に買っている人がいるのか疑問。だた、知り合いで健康サプリのCMに出演させられた挙句「これをずっと飲んでいることにしてください」と言われた人物を知っている。

  

【不思議なダンジョン】

 「トルネコの大冒険 不思議なダンジョン」1993年にスーパーファミコン用ソフトとしてチュンソフトより発売された。いわゆるローグライクゲーム。あらかじめ決められたマップではなく入る度にダンジョンが作られ「1000回遊べるゲーム」として発売された。主人公のトルネコはダンジョンに潜り、地面に落ちているアイテムを拾いそれらを駆使してダンジョン最深部を目指す。余談ではあるが今なお愛してやまないゲームであり、プレイする度に新しい発見がある。その次に発売された「風来のシレン」シリーズも大ヒットゲームとなった。

 

【レベリング】

 低レベルのプレーヤーが高レベルのプレイヤーと共に経験値の高いダンジョンで高い経験値を稼ぐこと。


【しあわせうさぎ】

 「クマのプー太郎」中川いさみによる四コマ漫画。その中に登場する「しあわせウサギ」は30年もの間幸せを探し続けているというウサギ。耳を何かの間に入れたりすると幸せを感じるらしい。アニメはあったが映像ソフト化はされていない。「しあわせうさぎ ~クマのプー太郎セレクション~」が2022年6月30日発売予定となっている!!

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