第9話 先輩として後輩の世話をするのは当然なんだけども……。けども!

   ☆*☆*☆



 寝る前に男子ならきっとわかるだろう日課ってやつをしてぐっすり眠り、翌日は早めに起きようと目覚ましもちゃんといじって寝たわけなんだけども。

 いやぁ〜まさかその判断がミス……でもないな。うん。早く起きようが遅く起きようが関係なかったよ。

 なんの話かって? 続きを聞けばわかるよ。



   ☆*☆*☆



「おはよう」

「あら、おはよ。思ったより早かったわね?」

「思ったよりとは」

「昨晩結構激しかったから遅刻ギリギリに起きるかと思って」

「マジでなに言ってんの?」

 デリカシーを知ってくれまいかお母様。たとえそれが合っていたとしても。

 俺じゃなかったら反抗期長引くからね? 良い息子な俺に感謝しておくれよ。まったく。

「いただきます」

 抗議してもいいんだけど、母さんにかまってる暇はないんだよね〜。今日は早く学校に行って丹夏さんと鉢合わせないようにしたいし。

「と、その前に〜」

 一応テレビつけてニュース流さないと。やっぱ朝つったらニュースつけながらの味噌汁だよね〜。

「えっとリモコンリモコン……」

「ん〜……」

「あ。夏だつってもエアコンつけてるんだからタオルかけてないと風邪引くぞぉ〜……」

「んぁ〜……ふすぅ〜……」

「まったく」

 手のかかる後輩だなぁ〜もう。さて、リモコンはっと……あったあった。

「うっし……っと。じゃあ改めて、いただきます。ずずぅ〜……」

 あぁ〜……うめぇ〜……。朝飲む味噌汁がこの世でいっちゃん美味いまであるわぁ〜。

 ……。

 …………。

 ………………。

「ん〜?」

 今なにかおかしなことがあったような……。あったっていうか日常の中に挟まってたっつぅーか。

 いったいなんだろ?

「ん〜……」

 まぁ……いっか。大事なことならそのうち思い出すっしょ。

 それよりも朝飯だ朝飯。

 味噌汁。米。ウインナー。目玉焼き。ミニトマトと無惨にも無造作に千切られたキャベツ。うん。こういうので良いよね朝ってさ。

 目玉焼きを米に乗せて醤油ちょこっと差してっと。

 あ、今日はバターもちょっと入れたいな。

「あらちょっくらごめんよ」

「なに? 足りないのあった?」

「バターがほしいなって」

「パンじゃないけど?」

「いや目玉焼きご飯にと思って」

「あ、そ。でも」

「あ、ないわ」

「そうなの。切れちゃってるのよ。だからマーガリンで良いんじゃない?」

「ん〜……」

「いやならそのまま食べちゃいな」

「まぁ悪くないんだよねぇ〜マーガリンも。ちょっと当てが外れたのがアレってだけ」

「あ〜らそ。じゃあさっさと食べて送れないようにね。あ、起こすの忘れないようにね。ちゃんと連れてってあげるのよ」

「わーってるって」

 俺のことどんだけ薄情な男だとでも思ってるのかね。母親として信用してくれってーの。

 が、抗議はまた今度。まずは飯の続き。まーじぇまじぇまじぇ。うっし。良い色合い。

「………………いやちょっと待った」

 おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい。

 絶対おかしいってぇ!!!

「なぁんでいんのぉ!?」

 ソファでタオルかぶって丸まってるこのピンク頭の後輩なんでいんのぉ!!?

 しかも。

「なんで受け入れてんのぉ!?」

「はぁ? なにが? っていうか声大きい。起きちゃうでしょ」

「お、おう……。で、なんで家にこいつがいるんですかいお母様?」

「そりゃあ朝ゴミ出しに行こうと思ったら家の前でうつらうつらしてて。あんたと一緒の高校だし待ってるのーって声かけたら。待ってるんですーって言うから。じゃあ家の中で待ってて〜。眠いなら寝てて良いからねぇ〜って」 

「えぇ〜……」

 家に入れたとかはともかく。朝っぱらから待ち伏せしてたのかよぉ〜……。

 せめて昼とか午後とかまでは鉢合わせないように気持ち早めに起きたのにそれより早く待機とか。

 まぁそれくらい必死なんだろうけどさぁ〜。

「…………」

「ふぅ〜……ふすぅ〜……ふすぅ〜……」

 家に入れて寝て待っててとか言えちゃううちの母親もだけど、なんで後輩さんは人の家でそんな穏やかな面して寝れんの?

 図太ぇ神経してんなぁ?

「こ〜ら。女の子の寝顔なんて見るもんじゃないわよ。あ、彼女なら別だけど」

「いや昨日? いや一昨日? あたりに知り合ったばっか」

「……手が早いのね」

「ちがわい」

 むしろ手が早いのあっち。しかも過激っていうね。

「とりあえず……わかった」

 準備はいつもどおりの時間に合わせれば良いってことだな。うん。

 あの時間から家に帰って朝早くから待ってたってことは全然寝足りないだろうし。

 美容のためにも寝かせてあげようジャマイカ。



   ☆*☆*☆



「……おっし」

 良い時間。今から出ればいつもの時間くらいにはなるかな?

 んじゃま。起こしますかねぇ・

「おーい。後輩さんやー」

「ふすぅ〜……ふしゅぃ〜……」

「…………」

 起〜きねぇ〜。人ん家でのんきな面して寝やがってこの後輩野郎さんめ。

 まぁ、起きてたら起きてたで騒がしくしたり襲ってきたり丸め込むのに忙しかったりと大変だろうけども。

 だがしかし。これから登校せなあかんのじゃ。さっさと起きてもらおうか?

「ん、ふひぃ〜……」


 ――ブチンッ


「ひゅ……っ!?」

 谷! じゃない! いや谷だけども! そうじゃなくて! えっと……い、良い物をお餅で……いや、お持ちで!

 いやいやこれも違う。落ち着け。落ち着くのだ思春期のリビドー。まだ朝だ。盛るには日が高い。呼吸を整えて落ち着くのだ。

「すぅ〜……はぁ〜……すぅ〜……はぁ〜……」

 よし、落ち着いた。そう思い込むとしよう。

 寝返りの拍子に引っかかったのかなんか知らないけどドセンターのボタンが千切れちまったもんで動揺しちまったよ。動揺し過ぎて変な音出しちゃったくらい。

 いや〜これどうしよう。ほんとどうしたもんだろ。

「…………」

「かふぅ〜……ひゃふ〜……」

 ん〜……。このまま起こしたら怒られるよな〜。嫌だな〜。怖いな〜。どうしようかな〜。

 まぁ、とりあえずとして。さしあたりとして。これくらいはしておこうか。


 ――パンパン……


「……ありがとうございます」

 良い物を拝ませていただきました。俺はしばらく強く生きられそうです。

 にしても、下は子供っぽい柄なのに上は意外と谷間が見えるようなデザインなんだね。うんうん。先輩良いと思うよそういうの。男は大喜びさ!

 って、拝んでる場合じゃない。おっぱいに礼はつくさなくてはいけないとしても。今は時間がない。

「おーい。時間だぞー。遅刻しちゃうよー」

「んぉはぁ〜……きゅふぁ〜……」

 なんちゅー寝息だよ。さっきから独特過ぎるぞ。

 にしても声かけたくらいじゃ全然起きない。じゃあいっそゆすったほうがいいかな? 寝てる女の子に触るのはちょっと抵抗があるし〜。先輩困っちゃうー。

 なにはともあれ。


 ――パンパン


 つっつ。ありがとうございます。

 ご丁寧に片膝立ててくれてとっても見やすいです。お猫様がのっびのびで辛そうですね。あ、タオルかけなおしときますねー。

 ふぅ……。今夜の分もごちそうさまです。恐縮です。

 恐縮ついでにいい加減起きてくださいね? ボタン一個やスカートめくれるだけじゃ済まなくなりそうな寝相だからさ。

「おーい。起きてー。カンカン猫缶カーン。朝だよー。起きなきゃ死ぬぞー」

「んぉっ。おっおっお〜……」

 オットセイかな?

「ふざけてる場合じゃないよ〜。起きて〜」


 ――ゆっさゆっさゆっさゆっさ


 あ、いけね。タオルが落ちてマグニチュード8.0が目視できちめぇ。倒壊寸前であります。

 このまま放置しとくと危険なので戻してっと。

 なにが危険ってこのまま起きた時の俺の命ね。無実だとしても言い逃れできないよねこれね。見ちゃってるから有罪って言われたらなんも言えないけどもね。

 ま、今ならタオルかけとけばバレねぇバレねぇ。そもそもまだ寝てるし。

「起きてってばー」

「んばばばばばばばばぁ〜……」

 よだれ垂れてきた。ばっちぃ。タオルでふいたろ。タオル大活躍。

 んでも。タオルがいくら活躍しても起きなきゃ意味ないよね〜。寝苦しそうな面には変わってきたけどさ。もうすぐ起きる兆候かねぇ? だと良いな〜。……ってか。

「いい加減にしろよおめぇ!? 人ん家だぞ!? 緊張感ねぇにもほどがあんだろうがい!」


 ――ぺしぺしぺしぺしぺしぺしぺし!


「おご? んあ? あで? いだ……いだだだだだだっ!? な、なんらぁ!?」

 おでこぺちぺち連打してたらようやく起きよったわ。じったんばったんと暴れやがって。またパンツ出ちめぇぞ。

「起きた? 起きたね? じゃあほら。顔洗ってきなさい。顔面よだれまみれだから」

「……んえ? おん……。おん。わがっだ……」

 あ、ありゃダメだ。まだ寝ぼけてら。ボケェってしつつのっそり起き上がってトボトボでも歩いていくのはええけどもやね。

「そっち玄関。洗面所逆」

 そのまんま行くのはダメだよ。よだれもだけど頭もボサボサで

「んぉ〜……ぁあ〜い……」

 ……よし。ちゃんと行ったね。顔でも洗って目を覚ますと良いよ。俺は君が準備整うまで待って――。


「んにゃあああああああああああああああああ!?」


「うーるせー……」

 極端な子だなぁ〜もう。静かだったりぎゃあぎゃあ言ったりさ。

 良かったよ父さんも母さんももう出てて。でもご近所さんのことは考えようね?

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと! しゃ、シャツ! あんた!」

「先輩はシャツじゃありません」

「じゃ、じゃなくて! シャツ! ボタン! 取れてる!」

「……知らないよ」

 知ってるけど。身を守るために俺は平気で嘘つくよ。

「え、じゃ、じゃあ……わかった……」

 なにが? 俺が無実だってこと? ありがとう。

「で、えっと……ど、どうしよう!?」

「……俺のシャツあげるよ。まだ新品あるし」

「ほ、ほんと!?」

「あ、でもサイズ……」

「大丈夫っしょ。というか、ボタン取れたシャツ着たまま外出歩く方がマズイんじゃないかい?」

「そ、そう……かも……しれなくもないっていうか……」

 俺もそこまで体格良いわけじゃないし。かといって丹夏さんも別にデカくないけどね。身長は。

 ただ……胸囲のことも考えると割と平気だと思うんだよね。少なくともぶかぶかで垂れ下がるとかはないよ思うよ。安心なさい。

「ほら、顔洗って頭整えてきな。シャツ取ってくるから。で、着てみてから考えよう。早く出ないと遅刻だし」

「わ、わかった……」

 うんうん。素直でよろしい。そのまま素直に昨夜のこととかも忘れてほしいな。

「あ、あの話は後でちゃんと相談乗ってもらうからね……」

「…………………………覚えてるよ」

「今の間はなに? ちょっと。まさかうやむやに――」

「あー時間がなーいーよー! 早く行きなさい! 出口に張り付かれたらボタンの取れたシャツの君に真っ向から向かい合わなきゃいけなくなーるー!」

「……!? お、覚えときなさいよ!?」


 ――ダダダダ!


 なんだよその三下ムーブ。アナタこの辺でいっちゃんヤベェ不良って言われてなかったっけ?

 なんか、ポンコツっぷりとかチョロいとこ見てると噂の真偽が気になってくるよ。

 まぁ、流れとはいえお悩みを聞くことにもなってるし。ついでに確かめるのもありかねぇ〜。

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呪猫少女と願いゴト 黒井泳鳥 @kuroirotten

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