第7話 俺は我が身を守ろうとしてるのだけど、対して目の前の後輩の様子がおかしい。それはもう色々と

「…………」

「…………」

 互い座り直して対面。

 俺は正座。向こうはあぐら。

 うん。それは良い。女の子があぐらなんてとか言う気はないし、言う度胸もないからそれは良い。

 ……良いんだけど。

「あ、あの~……」

「なに?」

「いや、なんでもないっす」

 い、言えない……。言える空気も根性もない。

 なにをって――。


 パンツ見えてますよなんて言えるかバカタレ!


 怒ってるからか気合入ってるからかわかんないけど、胸張って腕組んであぐらかいてるからこうスカートがね? 良い感じというか……めくれてるわけですよ。

 で、俺は今正座で目をふせてるわけで。状況的にもそれが普通の姿勢だし。加えて夜目が効くもんだからさ? 多少影があってもバッチリ見えるんだよね。

 ちなみに、今回は正面だけど水色の縞パンで小さい猫が猫パンチしてます。かわいらしいことで。いっそわざとだろってレベルのあざといサービスカット、ありがとうございます。

「で、見たんでしょ?」

「うえ!?」

 ど、ド直球に来ましたねぇ!?

 思わず変な声出ちゃったよ!

「わかってんだからね!」

「ぁ……ぅ……」

 や、やっぱりもうバレていたか……。そりゃそうだよな。こんだけ追いかけ回してたってことは確信がなきゃするわけもない。交渉なんて最初はなから出来なかったんだ。

 こ、こうなったら先に素直に謝って、許しを乞うしかない!

 男のプライドクソ食らえ!

「あんたが――」

「ごめんなさい――」


尻尾見たこと!」

「パンツ見ちゃって!」


「は?」

「え?」

「「んんん~~~???」」

 俺も首を傾げて向こうも傾げて……ん? なんか……あれ? いつの間に耳と尻尾なんてつけたんだろ?

 な、謎なタイミング……首の傾斜が余計すごいことになっちゃいそう。ちょっと痛くなってきた。

「え、な、は、え? あんた、コレ見たから逃げ回ってたんじゃない……の?」

「え」

 それはつまりなにかい? パンツ見られるよりもコスプレが趣味ってバレたくなかった的な?

 まぁ、うん。でも人によってはそうか。パンツよりも趣味がバレるのか嫌ってこともあるか。黒歴史的な? あとすんごい偏見かもだけど、コスプレって見せパンとか際どいラインとかってよくあるし。そう思えば趣味そのものがバレるほうが嫌ってのも納得。

 まぁそんなことは些細な問題。まずもってここは話を合わせたほうが良さそう。

 コスプレ趣味バレとパンツで咎められるより、趣味バレだけを詰められたほうが良いもんね。ついでにフォロー入れとけばわんちゃん許されたり減刑も有り得る可能性もなきにしもあらず。

 そうでなくとも単純に糾弾されることが一個減るし。まぁ、気にしてなかったらそれまでだけど。

 むしろコスプレだけ気にしてるんなら逆に怒られないところから怒られるのが増えるのでは……?

 ……んー、もうわからん。なるようになってくれ!

「い、いやぁ実はそうなんだよ。で、でも悪くないと思うよ? コスプレが趣味でもさ。珍しいっちゃ珍しいけど。ほら、そういうのって人それぞれだし? 胸を張っても良いと思うなぁ~」

「コス……プレ……。あんた、をコスって……?」

「え、あ、そういうファッション? な、なんだぁ~最近の都会で流行ってるファッションとかわかんなくてさ。普通にあるんだな~そういうの。え、でもそれだと追いかけてきた意味がないか。マイナーなのかな? それで恥ずかしくてーとか?」

「あ、うん。そ、そう……かも? そんな感じ……」

 あ、あれ? なんか勢いがなくなって……。心なしか耳と尻尾もへなっとしてない?

 随分とまた……デキの良いおもちゃだことで。

「わ――」

「わ?」

「わ、私の勘違いかよぉ~……!」

 なんですと? 今なんと?

「勘違い……?」

「……! い、いやっ。そう、そうなよ! こ、これはコスプレっ。私の趣味! うん!」

「…………」

 めっちゃ目泳いどるぅ~。

 え、なに? 違うの? コスプレが趣味じゃないっていうならその耳と尻尾はいったい――。

「そ、それより! あ、あんたさっきパンツって――」

 あっ。本人はただ話題を変えたいだけなんだろうけどそれはマズイ。あ~言葉の途中で視線が下に。スカートがめくれてるのに気づいた様子だぞこれ。

 おおう。ぶるぶる。急に悪寒が……。風邪かな?

「そ、そういえばあのときも。それからあのときも……」

 ぁ、あぁあ……。こんな急展開あり得て良いのだろうか。さっきまでを誤魔化そうとしてたのに。

 あの顔は絶対俺と会っているとき高確率で自分がスカートを履いていて、尚且つ位置関係が自分が上なことに気づいた顔だ。

 具体的にどういう顔って言われたら困るんだけども。

「あ……あ、あ……あ、あんた!? わ、わ、わわわたしのパンツ!」

「シッ! 声が大きい……!」

 これでバレたら不味いってことで一旦落ち着かせてからどうにかこうにか誤魔化し――。

「やかましい! そらすな!」

 あぁダメか! 言い訳の余地なしか!?

 だったら素直に。

「ほ、本当にごめん! 猫パンツ見ちゃって! 素直に言ったんでここはどうか穏便に」

「なるかぁ! スケベ野郎ぉがぁ!」

「シーッ! 親が来るから!」

「知ったことか! ぶちころす! いんにゃ! 生皮引っ剥がして三味線にしたらぁ!」

「お願いだから落ち着いて……っ」

 仮にここであんたを抑え込めたとしても親に女連れ込んだと思われて死ぬから!

 こんな夜中に連れ込むとは何事かってなかんじでこっぴどく叱られるから!

 そうでないパターンだとしても、ニタニタされるか腫れ物のように扱われるから! そんな青春なんて嫌なんだぁ!

 あとたぶん三味線が似合うのはそっち! 耳と尻尾的に!

「ちょっとぉ! さっきからうるさいわよ!? いったいそんなギャーギャーなにしてんの!?」

 ほうら言わんこっちゃないっ。部屋に来るまで秒読みだよ! どうしよう!? ねぇ! これどうしよう!!?

「ぶっころす。絶対ぶっころすっ」

 こっちはこっちでヒートアップしてるし。こ、こうなったら玉砕覚悟で取り押さえるなりして隠すしかない!

 とはいえ相手は超武闘派のとんだ問題児。化物みてぇな身体能力してしかもめちゃブチギレ状態。

 本当にこんなのを止められるのか?

 できるか俺? やれるか俺!?

 い~ややるしかないんだよ俺!

 やらねばやられる! やりきらなきゃならぬ!

 男には、やらなきゃいけないときがあるんだい!

「死ぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇえい!」

「とう!」

「うぇ!? ちょっ!?」

 右手を振りかぶったところでこっちからタックル。そのままベッドのほうへ上手く倒れ込めたぞ。ラッキー。

「こ、この……! どけ――あ、あれ……? なんで? 力入んな……って、なにしてんのよあんた!?」

「殴りかかられたら誰だって抵抗するしっ。てか静かに! 親来るから!」

「うるっさい! だいたい全部あんたが――ん~~~……!」

 あんまりにもうるさいから口をふさいだら抵抗が激しく!

 で、でも思ったより力なくてこれなら押さえ込むのは問題ないかな。

 女の子押し倒して口塞ぐとか背徳感があってドキドキ……は思ったよりも全然しないな。

 母さんがこっちきてる危機感のが大きいのかもしんない。

 普通に考えてこの状況を楽しめる余裕はないもんね!

「と、とにかく静かにっ。話ならちゃんと聞くからっ」

「~~~っ!」

「だ、だから暴れないでって――」

「……っ!? ~~~!!!」

 今膝にゴリっとした感触が……。そんでその瞬間丹夏さんがめっちゃ涙目になっちゃった。

 暴れるのを押さえた拍子にどっか踏んじゃったかな?

「……あれ?」

 口と手を押さえたまま膝をあげて下敷きになった物を見たんだけど。これ、コスプレの尻尾。

 あ~。踏んだから付け根のとことか引っ張られたのかな? それで腰とかおしりとか引っかいたとかそんな感じなのかな?

「ご、ごめん。でも暴れるから……」

「ふーっ。ふーっ」

 鼻息荒くしてマジで痛そう。耳も心なしかしおしおへたっと……。

 ……ん? さすがにおかしくない?

 いくら高性能つったってこんな生き物の……本物の猫みたいになるなんて。

 ちょ、ちょっと確認してみようか。ないとは思うけど念のため……ね。


 ――ふさふさ……わさわさ……


「これ、ほん……もの?」

「……!」

 口を押さえる手はそのままに、もう片方の手で猫っぽい耳と付け根をさわると、どこにも物と人体の境目がなくて。

 カチューシャとかそういう無機物の感覚がまったくなくて。

 なんならこの感触はむしろ馴染みがあると言いますか。

 だって、いつも触ってる猫の耳とまったく同じ感触だから。

「丹夏さん。君はいったい――」

 何者……なんだ?



   ☆*☆*☆



 親が向かって来てるのを一瞬忘れて見つめ合う俺たち。

 涙を浮かべながら見開き、頬を紅潮させたモモは一種の色気をはらんでいたけれど。

 なぜか俺はんだよね。

 なにもっていうのは嘘。そんときだけ性的な意味では特に思うことがなかったというだけ。

 もちろん状況的にそんな余裕がなかったってのはある。

 最初はパンツとかケツとか見たり、なんならのしかかられたり触れたりしてるわけなんだけど。

 不思議なことに、近づけば近づくほど。言葉を交わせば交わすほど。モモに対して性欲みたいなものが出なくなっていったんだ。

 正確にはあいつに精神的に寄り添おうとするというか。簡単に言えば心配かな。その手の気持ちを少しでも抱くといわゆる邪念ってやつが鳴りを潜めるんだよね。

 枯れたわけでもない健全な思春期男子なのに。

 髪の色がピンクって以外見た目は魅力的なモモに。

 俺はこのときから既に性的じゃない別の気持ちを抱きはじめていたんだ。


 ……まぁ、一人になると普通に女子として目に入るんで……ね。えぇ、その。そんときゃお楽しみにはさせてもらったことは何度かあります。

 本当に、思春期の味方でした。ありがとうな。

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