第8話 先輩として、後輩に教育するのなんて当たり前なんですよ
――バタン!
「ちょっと! なに騒いで……ってなにやってんの?」
さっきまで騒いでいたのにいざ来てみたら息子が布団にくるまってんだから文字通りなにしてんだよって思ってるでしょうね。心中お察ししますよお母様。
でもね? 俺には俺の事情があるんだ。
察してくれとは言わん。察されると困るし。
だから気を遣ってくれ頼む!
「い、いや別に……」
「……あんまりアクロバットなのはやめときなさいね。将来彼女困らすことになるわよ」
――パタン
と、言って出ていってくれたは良いものの……。
これぇ~……えっと~……なんかとんでもない勘違いされてない……かな?
あの、思春期特有のアレ的な……。
…………。
「ちょっと待っ――」
「……ぱ! んでぇい!」
「はぅあ!?」
母さんを呼び止めようとした瞬間。俺に電流走る。
発信源は……股間。
「くぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
犯人はわかってる……。気合の乗った声と一緒に膝をぶちかまされたんだから……。そりゃわかる……。
てか布団に突っ込んで俺も一緒にくるまってたわけだし。わからいでか。
にしても……いてぇっ。呼吸もままならないっ。
なんで……っ。どうして……っ。こんな酷い仕打ちを~……!?
「なに……すんの……?」
「こっちのセリフよ! あんな汗くさいとこに突っ込んどいてよく言うわね!?」
わ〜……顔真っ赤になってら。桃色のお耳によく似合うよ。
それとたぶん、俺も顔真っ赤。いや、もしかしたら青くなってるかもしれない。本当にマジのガチでヤバババババババ……っ。
案外力弱いかもとなったとて、急所は無理……!
「さぁ〜てぇ……どうしてくれようか?」
「…………」
拳を手のひらにパンパンしてる音聞こえるけど……すんません。反応できねぇです。
「……? ねぇ、ちょっと……」
「ちょっと……待って……」
「はぁ? なんで待たなきゃ――」
「内臓……蹴られたことある……?」
「はい? あるわけないでしょ! あんただってそんなの――」
「金○って内臓なんだ……だから、腹筋なしで腹に膝蹴りされたのと同じなんだわ今の俺って……っ」
息しづらいからめっちゃ早口になったけど、なんとか言いたいことは言えた……ぞ。俺、偉い……! 最後ちょっと引きつったけど、及第点っしょ……。
それで、反応……は?
「き、きんた……アレってな、内臓だったんだ……!?」
めっちゃ驚いとる。ついでに言いかけて赤面しとる。乙女か己は。
……乙女か。
「すぅ〜……はぁ〜……だ、だから……待ってください……マジで……」
「う、うん……。な、なんか……ごめんなさい……」
素直だなー。やっぱ、根は良い子なのかもしえない。
……良い子は不法侵入も侵入先で
☆*☆*☆
いや本当馬鹿だろこいつ。ふざけんなよマジでよぉ。死ぬほど痛かったよこんときさぁ〜……。
まぁ……反省してくれたし良いんだけどさ。
こいつもこいつで悪気は……どうか知らないけど、男にとってソレがどんなに痛いか知らなかったみたいだし。
広い心を持って許してさしあげましたよ。俺、先輩だしね。
じゃ、そんな痛みが治まってからの威厳たっぷりの俺の様子が……こちら。
☆*☆*☆
「お前さ、冗談で済まないってわかってる?」
「え、えっと……」
「もしも潰れたりしたらさ。二個しかない大事な内臓なくなるわけよ。親に孫見せれなくなったらどうするつもりよ? 仮に片方だけだとしてもさ。片方だけ痛みでショック死だってありえるんだから。テレビとかでもたまにやってるんですけどね。蛇使いがコブラに股間噛まれて毒じゃなく痛みで死んじゃったりだとかさ。幸い俺のは¥今んところ血も出てないから無事かもしれないけど。下手すら大惨事よ。殺人未遂ですよ。そこんとこわかってますかね? 親御さんからどういう教育受けてるんだか……」
「え、あ、えっと……ご、ごめんなさ……い?」
ふぅ、なんとか力技で優位に立ったぞ。叱りますよって態度取ったらちゃんと正座してわけがわからずとも謝ってるし、やっぱ根は良い子だこの子。……アホの子の可能性もあるけれども。
「あ、あの……」
「なに?」
おずおず手上げて。なんかわからないことでもあったんかな? 別にゴリ押しした以外特別なことはしてな――。
「な、なんで……孫……?」
「………………………………あー」
そっかぁ〜。
いやいや。人を見た目で判断しちゃいかんね。誰であっても知ってることと知らないことがあるもんだ。
俺だって女体の神秘に未だ触れたことがないのだから。目の前の女子が
それに、知らなければ教えればいいじゃない。それが先輩の務めというものなーのだ。
「ごほん。いいか後輩。子供は男女によって成すのはわかるね?」
「……っ。ま、まぁ……うん」
「雄しべと雌しべというやつ」
「それくらいなら理科で……」
「人間も植物も大差ないんだよ後輩。ようは
「……!?」
お口あ〜んぐりして驚いてら。ついでに顔も真っ赤。
まったく、なにを想像してるんだかやれやれ。初でもムッツリえっちなんだからやれやれ。
……なにやってんだろ俺。後輩の女の子に性教育て。冷静に考えて一番やばいの俺なのではなかろうか?
いや、待て待て。不法侵入に比べたらこれくらい普通だって。うん。普通普通。そういうことにしとこ。
てか、んなことよりも……だ。
「なんで大事なところって言われてるか、わかってくれたかね後輩?」
「あ、は、はい……」
「それは良かった。ところで」
「な、なんでしょうか……」
「不法侵入も悪いことっていうのはわかるね? 犯罪だって」
「え、えっと……はい……」
「まぁね、君も若いからさ。衝動的にやっちまうってこともあるだろうさ」
「若いって……年そんな変わんないじゃない……」
「なんて?」
「な、なんでもないっす……」
「よろしい。でね、わかってるのにやっちゃったってことはさ。その……なに?
「……! まぁ、うん……はい……」
よっし、上手く繋げられたぞ!
話題に上げても襲いかかってこない!
このまま明日にでも相談に乗る感じにして丸め込んで、今日のところはって流れに持ち込むぞいや!
「さっき触った感じだとさ。完全に頭に張り付いてるみたいで、困ってるんでしょ? で、まぁ……常時ソレがあるっていうのがバレたくなかった的な」
「だいたい、そんな感じ……っす」
「ぉ、ぉぅ……」
マジ? 当てずっぽうだったんだけど。
んまぁ、耳の付け根が頭皮と完全にくっついてたから困ってても不思議じゃないんだけどさ。
とりあえず、原因はだいたいわかったし。あとは明日にしてもらおう。
「こんなことしでかすくらい困ってるならさ。相談に乗るから」
「え……」
「でも今日はもう遅いから。帰りな。親御さんも心配してるかもだしさ」
「それは……そ、だけど……」
あ、親が心配してるのはわかってんだ? すんごい気まずそうな顔してるし、仲は悪くないのかな?
そうなるとなんで夜に徘徊とかしてるんだろ?
ん〜……謎。
このあたり含め、明日聞くとしよう。
「じゃあ今日はこのくらいで帰りな。続きは明日にしよう」
「え、で、でも……っ」
「あんまり居座ると、俺も出るとこ出なくちゃいけなくだね……」
「で、出るって……ど、どこに……?」
「もちろんひゃくとうば――」
「ま、待って! わ、わかったから! 明日! 明日絶対ね!?」
「大声出すんじゃない……! 早く帰ぇれ……!」
「……っ。ぜ、絶対だからね……っ」
……ふぅ。ようやく追い出せた。
けど、意外とチョロい相手だったな。
まだ安心はしきれないけど、少なくとも今夜は安心して眠れるわ。
その前に、飯食って、シャワー浴びて……の前に日課をしまして、それからシャワー浴びて寝よう。
いや……なんだろうな。落ち着いてみるとこう……やっぱ同年代の女の子の匂いが残ってるわ感触も思い出せるわ尻の記憶もあるわで。
寝れたもんじゃねぇんだよなぁ!?
☆*☆*☆
はい。思春期なのでね。そんなもんだよ。
如何な俺と言えどね。一人になればただの年頃男子なんだよ。だから仕方ない。仕方ないんだ。
……そんなもんなんだよ!
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