形見のカミソリ
どんなものであれ、形見は無くしてはいけない。というのを、私はK子という女性から教わった。
友人のK子には母親がいない。彼女が12歳の時に亡くなっている。そんなK子は母親が使っていたというカミソリを形見として、肌身離さず持ち歩いている。なぜ、そんなものが形見なのかは知らない。
ところがある日、血相を変えたK子がこんなことを言う。
「形見……無くしちゃった……」
さぞ、ショックだったのだろう。と、私は思った。なんせ、顔色が真っ青で声も震えている。今にも卒倒しそうな勢いの彼女の肩に手をやって「大丈夫だよ。きっと見つかるよ」と励ましてやった。
今思えば、K子はその時「ショックを受けていた」というより怯えていたのだと思う。K子が形見のカミソリを無くしてから数週間が経ち、突然彼女は高校を休んだ。
しばらくして、登校してきた彼女の姿を見て、驚いた。右耳を覆うように頭を包帯で巻いていたのだ。
「どうしたの!?」
血相を変えた私が尋ねると、K子はぽつりぽつりと話してくれた。
部活の練習が終わってヘトヘトになった彼女は、帰ってきて早々、ベッドに横たわった。枕に頭を預けた瞬間、鋭い痛みが右耳に走った。
枕はおろかベッドは血だらけ、痛みはじんじんと強くなり、パニックに陥ったK子。そこで彼女は、枕から突き出たカミソリを見つけた。
そのカミソリこそ、K子の母の形見だった。
「なんだかね……『次は無いよ』って言われてるみたいなんだよね」
形見には、使っていた人の思いが宿るというらしいが、K子の母親は一体どんな人だったんだろう……。
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