配達先
某ピザ屋でバイトをしていた。ある時の配達先での話。
いつもどおり、先輩から「配達行ってこい」言われ、私は熱々のピザを、メモかなんかに書かれた住所に持っていった。
場所はとあるマンション。そんな大きくもなく、どこにでもある普通のマンションだった。
書かれた部屋番号は581。エレベーターで5階まで上り、熱いピザを片手にのせて、その部屋のインターホンを鳴らした。
しかし反応はない。もう一度鳴らしたがやはり出てこない。留守かなと思ったが、人がいるのかどうか確かめるため、581のドアに耳をあてた。
カリカリ……カリ……カリカリカリ…………カリカリ……カリ…………。
何かを引っ掻くような、そんな音がしていた。不審に思ったが、耳をドアから外して、ふと上を見てみると、部屋の番号は580。隣と間違っていたのだ。
やっちまったと思って、すぐにその隣の581の番号が書かれた部屋のインターホンを鳴らす。部屋からは中年の女性が出てきた。隣の580のことを聞いてみようかと思ったが、結局ピザを渡してそのまま店に戻った。
しばらくして、新聞にそのマンションが取り上げられているのを見つけた。そこには、幼い兄妹の死体が見つかったと書かれていた。
死体が見つかった場所は580だったらしい。あの音は——あの引っ掻くような音は、兄妹が死を目前にして助けを求めていたサインだったのかもしれない。
答えてあげるべきだったなと思いながらも、私はその日もピザの配達に店を出た。今も、同じピザ店で働いている。
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