お手玉

 何の気もなしに、ママチャリで外に出た。キコキコと自転車が、太陽の照り返しが酷いアスファルトの上を走る。今日は、最高気温をマークしたと報じられるぐらいの夏だった。


 俺は暑さに耐え切れず、通りかかった公園で止まる。園内にあった自販機で炭酸飲料を買った。蝉の声がけたたましく、なんで自分は外に出てしまったんだろうだなんて後悔していた。


 真昼の平日。公園に人はいない。いつもならこの時間、子供たちの笑い声なんだかが自分の住んでいるところまで響いてくる。


 だが、誰もいないと思っていたはずの公園には、おかっぱ頭の小さい女の子が一人いた。今では珍しく「お手玉」をして遊んでいる。公園の端のベンチに腰掛け、遠目でその光景を眺めていると、なんだか聞いたことのないような歌を歌っていることに気づいた。


 よく聞こえない。耳を澄ます。それでも聞こえず、少しずつ近づいていった。


「はーなとーれ、あーなたーの、おーとしたおーなご、たーだのひーとには、わかーらぬ、ふーたり」


 そうしたフレーズを、確か繰り返していたと思う。結局その後、俺は全速力で逃げたので、どんな意味なのかわからないが、ただ一つ分かることといえば、女の子は「お手玉」などしていなかったことだ。


 女の子は自分の両眼玉をまるで「お手玉」のようにして投げて遊んでいた。

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