池袋奇譚
後藤文章
屋根の上
中学の時、サッカー部に所属していた自分は、活動が終わると、その当時付き合っていた女の子と一緒に帰っていた。練習が長引いた日でも、彼女はいつも待ってくれた。だから、帰るのは暗くなってからというのも少なくなかった。
その日は、いつもより神経を使った。なぜなら帰り道付近には不審者情報が張り出されていたからだ。屋根の上で「ほうほう」とフクロウのように鳴く、中年の男。見つけたらすぐ通報するつもりだが、そんな気色の悪いものを彼女には見せなくない。
しかし、神出鬼没の変態にどう対処するかもわからず、次第にそんなものに神経をいちいち摺り減らすのは馬鹿げているようにも思えてくる。そうなると楽観的になり、噂の変態なんかに遭うわけないだろうと、考えるようになってきた。
だが、奴は現れた。夕焼けの色が濃くなっていく時間帯。彼女と一緒に帰っていると、突然視界に入ってきた。
学校から少し歩き、住宅街に入った時、「ほうほう」という高い声が聞こえる。目をやると、頭の禿げた太った男が中腰になり、両手を羽のようにゆっくり動かしている。屋根の上で、沈む夕日に向かって。背広一枚だけを羽織って。
すぐにスマホを取り出した。同時に、ここを離れようと彼女の手を引っ張った。しかし、彼女は動こうとしなかった。屋根の上の男を見つめている。震える唇と瞳。何か言いたげに開かれていた口から出てきた言葉は、
「……パパ…………」
その後、彼女と別れることになったが、理由はべつにあの男の所為ではない。なんだか気まずくなっただけで……。
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