エレベーターは満員
私の友達は、古びた団地に住んでいた。中学のころの話である。
友達の家に初めて遊びに行った日のこと。最上階で暮らす彼女のもとへ向かう為、エレベーターに乗り込んだ私は、奇妙な出来事に遭遇した。
最上階のボタンを押したころ、エレベーターの中には私一人だった。しかし、エレベーターはすぐに次の階で止まった。丸々と肥えた男が一人入ってきた。彼だけで、エレベーター内の二人分のスペースを占めていた。
すると、またすぐにエレベーターが止まった。そしてまた、乗りこんできたのは、同じように太った男。そしてその次も、その次も、太った男が一人ずつ乗りこんできた。大きな腹をゆすり、額に脂汗をにじませ、息をはずませた男たちに、私は囲まれた。
平均的な女子中学生より体が小さかった私は、エレベーターの端の方へと追い詰められた。身の丈を優に越える太った男たちによって、その場は圧迫感で満たされた。
冷たい汗をかき、息を切らし、今にも倒れそう。ぎゅっと目をつぶり、私にはエレベーターの到着を待つしかなかった。
すると、一人、また一人と男がエレベーターから出て行き、最上階へと着くころには、私一人となっていた。
「どうしたの?汗だくじゃん」
エレベーターの前で出迎えてくれた友達は、さぞかし心配していたように言った。私はこれまでの経緯を説明しようと口を開きかけたが、続けて彼女が話した事に、私は口を閉ざした。
エレベーターには監視カメラ設置されている。どの階からでも、室内の様子が見られる。私の友達も、エレベーターに乗り込む私の姿を見ていた。
しかし、彼女が言うには、カメラに映っていた私は、徐々に室内の端へと後退し、しがみつくように壁に手をつき、苦しそうに呼吸をしていたという。
エレベーターに乗っていたのは私一人だった。
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