十、君の狗

 ガララ カシャーン


 頭の中で鐘が鳴ったみたいだ

 ぐわんぐわんする

 人間の足音と怯える匂い

 真っ暗の中で微笑む君

 また一緒に散歩に行こうよ



 この子 持ちますかね


 あとは本人次第ってところかな



 おい

 起きろ お前がくたばったら おれもオシマイなんだぞ


 君は


 ジン お前を見てるとムカつくんだよ

 トロくて いつまでも人間のこと考えて

 独りで生きていけばいいんだ

 そしたら そんな気持ちも要らなくなる


 そういえば

 どうして君はわたしをジンと呼ぶの


 それは

 おれはお前が

 いや どうでもいいだろ


 じゃあ 君の呼び名は


 おれは

 おれはお前だ


 なにそれ 答えになってないよ



 今日は以前連絡があった 里親になる家族が来られますね


 ああ 新しい家族が見付かるといいな


 そうか

 ここは保護施設なんだ

 わたしは野垂れ死にするところだったんだね

 それでも構わなかったけど


 しばらくして また人がやってきた

 どうやら里親になる人みたいだ

 他のケージの犬たちが騒ぎ出す


 僕を見て


 私はお利口さんよ


 俺は番犬になれるぞ


 自分の大安売りバーゲンセール


 そんなことするぐらいなら死んだ方がマシだ

 って君は思ってるでしょ


 当然だ

 狗どもが

 媚びて生きて なにがいいんだ

 一生人間にケツ振ってろ


 君は下品だね

 でも それも一理ある

 なんて思ってたら わたしのケージの前に人間がやってきた


 この犬はどうなんですか


 数日前に保護したんですけど かなり弱っていて


 私 この子好きかも お母さん


 母親と その子どもかな

 耳障りな声だよ


 玩具じゃないんだから 適当に考えないでちょうだい


 でも かっこいいんだもん


 命があるんだから 飽きたら捨てるじゃ駄目なのよ


 私がちゃんと学校帰りに散歩も行く ご飯もあげるから


 口先だけならどうとでも言える

 子どもなんて 気分で変わるんだから


 名前はジンが良いと思うんだ。

 ねえジン 一緒におうち帰ろうよ


 はあ わかったわ ちゃんと約束は守ってよ


 ジンか

 その名前は反則だよ

 不思議だね

 折角 忘れかけてたのに

 夢の中に追いやったのに

 また思い出した


 ちっ だからおれは


 ん


 おまえが羨ましいんだよ


 へえ


 人間と対等で 想い合ってるお前が


 そっか


 君も本当は



 久資 もう少し頑張ってみるよ

 狗で上等

 今日も主人のために駆ける

 ジンは今日も明日も駆ける

 どこまでも どこまでも

 でも いつかきっと叶えてみせる

 君の夢を

 君の望みを

 だって わたしは


 君の狗だから

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考える狗 島流しにされた男爵イモ @Nagashi-Potato

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