登場人物、街並み、世界観がじっとりと湿る空気のようにまとわりついてくる、そんな重厚な文章が魅力です。
先人の方々のレビューが的確なので、詳細はそちらを読んでいただければと思います。私の方はまた別の切り口で。
男爵イモさんは自主企画で作品へのアドバイスに繋がる評価企画をされている方です。
その関係か、この『内なる獣が〜』に寄せられている応援コメントでの読者さんの気付きとそれに対する作者さんの受け答えが創作活動をする上で、読む側と書く側とどちらの視点でも大変学びがあるものになっています。
新しい作品をどんどん書くことももちろん大事ですが、それだけだと全く似たような作品ばかり生み出す結果にもなりかねません。
一度仕上げた作品を自分でもう一度読み直し、さらに読者さんの感想やアドバイスを真摯に受け止めて改稿を繰り返す行為は鋼の鍛錬をも彷彿します。
その上で、改稿で学んだ技術を新しい作品に活かすのです。
なので応援コメント欄も読んでみることを強くオススメ致します!
ハードボイルドな作風の本格SF。
『精神置換技術』が発展した世界で、人々は「チップ」に記憶を移したり、「複製素体」というクローンに肉体を乗り換えて不老不死を得ていた。
しかし、その恩恵に与れるのは富裕な者のみで、貧しい者は社会の掃きだめで生きていくしかなく、貧富の差が極端に広がっていた。
物語の舞台となる貧民街、『龍灰窟(ロンフェイクー)』で自身の記憶を求めながら戦う男、ヴァラガン・ラッキーマン。
ある仕事を請け負ったヴァラガンだったが、それを契機に『龍灰窟』全体を揺るがす事件に巻き込まれ、探し求めた記憶にも近づいていくことになる。
本作で特筆すべきはSF的世界観と、中華的な舞台が融合している点です。
舞台の『龍灰窟』という街を初めに、ヴァラガンが馴染みの飲食店『炎熱酒家』の店主は「江(ジャン)」というなど、中華的要素がSFの世界観に独自性を与えています。
また、硬質な文体はダークな世界観を際立たせています。
豊かな語彙で細部までこだわった文章により、作中の映像をイメージすることができました。
主人公であるヴァラガンの造形も面白い。
貧民街で記憶を探すために非合法な仕事にも従事するためか、どこか冷淡で投げやりな面があるように見えます。
自身のなかの凶暴性を持て余し暗い影を背負う男。
ですが、どこかお人好しで困っている人間を見捨てられない善性もあります。
苦境に立たされて毒づきながらも、生き延びるために戦うヴァラガンは主人公として魅力的だと思います。
主人公のヴァラガン、そして相棒のガントレット。
『龍灰窟』を牛耳るマフィアのボス的立ち位置の王(ワン)。
ヴァラガンの前に立ち塞がる『延命管理局』。
打算と欲望が支配する街で繰り広げられる無明のバトルで生き残るのは誰か。
ぜひ見届けて頂きたい一作です。
※自主企画「批評で作品を伸ばそう!」に参加させて頂きました。
始めの3話を呼んだ感想です。
批評を書くことに慣れておりませんので、的外れでしたら申し訳ございません。
・良かったところ
世界観をしっかり持って描かれているのだな、と感じました。
末期感、無常感、場末の空気、生と死、そうしたこの世界のありようが第1話からすごく伝わってきます。
この物語がどういう世界で紡がれていくのかが重厚な手ごたえとして感じられました。
・もうひとつなところ
世界の描写に対して、人物の描写が少ないな、と感じました。
あえてくどく書いてないのかな、とも思いましたが、主人公を含めた登場人物の像が浮かびにくかったです。
・ご提案
私自身の悩みにも直結しているので「おま言う」と言われそうですが、読者目線で「ここは書いて欲しい」「ここは重たい」のバランスが変わるとまた印象が変わるのかな、と感じました。
やり方はいろいろあると思いますが、登場直後の登場人物の描写を増やす、変える等されると、登場人物の輪郭がはっきりとして、魅力的な世界を堪能しやすくなるかもしれません。
偉そうに述べてしまいましたが、未熟者ゆえのイマイチな批評をご容赦ください。
※2022/12/24 私の読み取りが不足していた部分がありましたので、修正しました。申し訳ございません。
前作「空虚に身を委ねて」と、似たダークで退廃的な世界観です。
それをそのまま、近未来に舞台を移したハード・ボイルドSFの傑作です!
ヴァラガン・ラッキーマンが冒頭で、自分の記憶を売るところから、物語は進展します。
混沌な様相を呈する、「龍灰窟」。そして、80年代、90年代の傑作SF映画の「ターミネーター」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を彷彿とさせる魅力ある登場人物達。
西洋風でありながら、中国マフィアのような、名前を持ち、和洋折衷の構造を持つ本作はオリジナリティあふれる力作です。
「延命管理局」、「デルフォード警察署」、などの、うごめく組織との暗闘、「ガントレット」や「赤松博士」や「村門 優」などのキャラクターがどう絡んでくるか、この物語の先を皆さんと一緒に確かめたいです。
硬派な文体に、個性的な比喩表現、さらに現在の売れ線を、良い意味で無視した「非情な世界観」。
あと、私事で恐縮ですが、「内なる獣が俺を殺す」という、私自身の「記憶」の経験と、体感が合致する、ぶっ飛んだタイトルのセンス。
令和版「不夜城」ともいえる今作を、猛プッシュ致します!!