骨太ながらも洗練された文章。重厚な設定とストーリーの本格SFがここに!

ハードボイルドな作風の本格SF。

『精神置換技術』が発展した世界で、人々は「チップ」に記憶を移したり、「複製素体」というクローンに肉体を乗り換えて不老不死を得ていた。
しかし、その恩恵に与れるのは富裕な者のみで、貧しい者は社会の掃きだめで生きていくしかなく、貧富の差が極端に広がっていた。
物語の舞台となる貧民街、『龍灰窟(ロンフェイクー)』で自身の記憶を求めながら戦う男、ヴァラガン・ラッキーマン。
ある仕事を請け負ったヴァラガンだったが、それを契機に『龍灰窟』全体を揺るがす事件に巻き込まれ、探し求めた記憶にも近づいていくことになる。

本作で特筆すべきはSF的世界観と、中華的な舞台が融合している点です。
舞台の『龍灰窟』という街を初めに、ヴァラガンが馴染みの飲食店『炎熱酒家』の店主は「江(ジャン)」というなど、中華的要素がSFの世界観に独自性を与えています。

また、硬質な文体はダークな世界観を際立たせています。
豊かな語彙で細部までこだわった文章により、作中の映像をイメージすることができました。

主人公であるヴァラガンの造形も面白い。
貧民街で記憶を探すために非合法な仕事にも従事するためか、どこか冷淡で投げやりな面があるように見えます。
自身のなかの凶暴性を持て余し暗い影を背負う男。
ですが、どこかお人好しで困っている人間を見捨てられない善性もあります。
苦境に立たされて毒づきながらも、生き延びるために戦うヴァラガンは主人公として魅力的だと思います。

主人公のヴァラガン、そして相棒のガントレット。
『龍灰窟』を牛耳るマフィアのボス的立ち位置の王(ワン)。
ヴァラガンの前に立ち塞がる『延命管理局』。

打算と欲望が支配する街で繰り広げられる無明のバトルで生き残るのは誰か。
ぜひ見届けて頂きたい一作です。

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