虚飾

現代の意味でのゴシックを用いたミステリにおける悲劇とは得てして虚飾である。現実的な悲惨さをその調度品で飾るようにして隠匿される。曼珠沙華と物々しい名を持つ部屋に纏わる悲劇性がまさにその様子で、双子の片割れが一体どのようにして何故「消えてしまった」かは語りきらない。仄めかし匂わせることに重きがあり、語り手の情報を共有して想像させることが狙いになる。
ならば読むべきはその飾りたち。時代錯誤の屋敷、悲劇の双子とそれぞれの行く末、古い因習、曼珠沙華。何もかもがあまりに綺麗だ。人一人が消えたことを十三年も黙し誰もが咎めることすらせず儀式的に消費される。双子のうち消えるのがどちらにせよ片割れが涙することで完成し、現実はその悲嘆と共に流れてしまうだけ。文末のように傍観者でいること以外を許さない。