古い西洋風のお屋敷の、とあるいわく付きの部屋にまつわる事件のお話。
怖いお話ではないんですけど、どこかホラーにも似た不穏な空気感を感じる掌編。
古びた洋館と、可愛らしい双子の姉妹、そしていわく付きの部屋に不可解な事件。
とにかく伝わってくる雰囲気が強いというか、頭の中で画が浮かぶようでした。
文章と話運びが巧みで、とにかくするする読まされちゃうのが心地よい。
文章の、この熱量が低めでしっとりした手触りが、そのまま世界を下支えしているような感覚が大好き。
2,000文字とコンパクトな分量ながら、あと引く強い印象を残してくれる作品でした。
現代の意味でのゴシックを用いたミステリにおける悲劇とは得てして虚飾である。現実的な悲惨さをその調度品で飾るようにして隠匿される。曼珠沙華と物々しい名を持つ部屋に纏わる悲劇性がまさにその様子で、双子の片割れが一体どのようにして何故「消えてしまった」かは語りきらない。仄めかし匂わせることに重きがあり、語り手の情報を共有して想像させることが狙いになる。
ならば読むべきはその飾りたち。時代錯誤の屋敷、悲劇の双子とそれぞれの行く末、古い因習、曼珠沙華。何もかもがあまりに綺麗だ。人一人が消えたことを十三年も黙し誰もが咎めることすらせず儀式的に消費される。双子のうち消えるのがどちらにせよ片割れが涙することで完成し、現実はその悲嘆と共に流れてしまうだけ。文末のように傍観者でいること以外を許さない。