復讐者Ⅱ

sho-ta

第一話 プロローグ

「な、何だ……これ?」


 彼は今、椅子に両手両足を結束バンドで固定されており、身動きが出来ない状態である。


「どこだよ……ここ」


 今自分が置かれている状況が、分からないのだろう。彼はここに来るまでの記憶を懸命に思い出そうとした。


「確か、下駄箱に手紙が入っていて……この小屋に来たところまでは覚えてるけど」


 眉間に皺を寄せ、彼は考え込む。すると小屋の奥から人影が出てきた。室内に電気は点いておらず、街灯の光だけなので薄暗い。彼は目を細めて人影を見る。


 段々露になる人影。彼の目の前まで来ると、彼は目を見開いた。その人物はドクロの仮面を着けているからだ。彼が口を開こうとした時、彼の顔が左に弾かれた。


 何が起こったか分からず、目の前の人物を見返す。すると今度は彼の顔が右に弾かれる。暫くの間、彼の顔は左右に弾かれ続ける。殴られ続けた彼の顔は、瞼が腫れあがり口からは血が出ている。


 そんな状態でも彼は、目の前にいる人物の正体に気付いた。


「お、お前……晴斗か?晴斗なんだろ!」


 その言葉に微かに動揺する人物。手が小刻みに震えているのを彼は見逃さなかった。


「おい!手、震えてるぞ。やっぱり晴斗なんだな。お前……覚えておけよ!こんなことしてただじゃおかないからな」


 勢い良く怒鳴り散らし、彼は目の前にいる人物を睨んだ。


「早くこれ、ほどけよ!」


 知っている人物だと分かると、彼は急に態度をデカくする。その時の晴斗と呼ばれた人物は、ある人の言葉を思い出していた。


『復讐を達成させるための条件


 一、自分の正体は決して悟られない事

 二、復讐は覚悟を持って徹底的にやる事(油断すれば返り討ちに遭う)


 復讐が出来なければ、君は今までの暮らしを脱却することは出来ない』


 晴斗と呼ばれた人物は、懐からナイフを取り出す。ナイフを見ても態度を変えない彼は、更に捲くし立てていた。


「そんなもん取り出して何する気だ?お前じゃナイフで刺すのは無理だろ」


 声高らかに笑う彼にどんどん近付いていく。目の前で立ち止まると、ナイフを彼の腹部に刺し込んだ。


 その瞬間、呻き声が室内に響く。ナイフで刺された箇所は、血が滲んでいる。


「お、まえ……マジで、刺しやがったな」


 尋常ではない汗が出ている。相当痛いのだろう。彼の顔は苦痛の表情をしていた。


「君が悪いんだよ……。君たちがやめないから、僕はこうするしかなかったんだ」


 晴斗は仮面を取ると、その素顔を見せた。そこには気弱な青年がいた。


「もう取り返しはつかない……」


 晴斗はそこまで言うと、更にナイフを突き刺す。何度も、何度も恨みを込めて。その度に呻き声を上げる。いつの間にか晴斗の手の震えは止まっていた。


 室内には、晴斗の息遣いのみが聞こえる。さっきまで威勢よく言葉を発していた青年は、大量の血を流しながら絶命していた。後退りをする晴斗。


「……何てことを、したんだ僕は」


 我に返ったのか、晴斗は頭を抱えて呟いた。

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