第十一話 晴斗の目覚め
サイの頭の中からは、晴斗の声が聞こえてくる。悲痛な声が……「もう止めろ」と、そう問い掛けてくる。
「何故、止めなければいけない?これはお前が望んだことだ」
『違う……確かに彼らを懲らしめようとした。でも……ここまでは望んでいない』
必死にサイを止めようとする晴斗。
――何故だ……。晴斗はこれを望んでいたんじゃないのか。じゃ、俺が今までやってきたことは何だったんだ?
サイの頭には何故?の言葉で埋め尽くされていく。考えても答えは見つからない。
「お前は……いじめに苦しんでいた。だから、復讐をしようとしたんじゃないのか?お前が、何を考えているのか俺には分からない……」
『確かにいじめには苦しめられた。彼らのことは、凄く憎かった。でも……僕は人の命を奪ってしまったんだ。彼らよりもひどいことをしていることになる……。だから、もう止めよう……』
晴斗の言葉を無視し、持っていたナイフで斎藤を刺そうとするも身体が動かない。
――何で動けない……これは、晴斗の意志か?
「邪魔を……するな!」
『駄目だよ、これ以上は何もさせない。僕たちは死んで償わなきゃ……』
「!?」
身体が勝手に動く。晴斗が動かしているのか。持っていたナイフの刃先がサイの喉元に突き付けられる。
「何を考えている……お前も、死ぬんだぞ」
『知っているよ……君と僕は生きてちゃダメなんだ。この件は僕の命を犠牲に全てを終わらせる……』
――身体の制御が出来ない。このまま俺は復讐を遂行できないまま……死ぬのか?でも、晴斗が良いと言うならこれもアリなのかもな……。
サイは抵抗する力を弱めた。死を覚悟した時、俺の腕を止める男が現れた。その男は真直ぐな目で俺を見ていた。
* * * *
「仁科さん。彼は何をしているんでしょうか?」
桜井が首を傾けながら、仁科に問い掛けてきた。
――そんなことを俺に聞かれても、分かるわけがない。逃げた斎藤を追い掛けると、真壁が接触しているところに遭遇した。その後を尾行してみると、三年前に事件が起こった廃ビルに入っていくのが見えた。
そして今に至るわけだが、真壁は斎藤に馬乗りになったかと思ったら一人でブツブツ言い始めており、挙句の果てにサイは自分の喉元にナイフを突き付けている。
――何が何やら分からない状態だ。しかし止めないわけにはいかない。
仁科は咄嗟に身体が動き、真壁の右腕を掴んだ。
「誰だ?」
「警察だ。君は死なせない。絶対にだ!」
真壁の問いに、仁科は力強く答えた。
「何で……ですか?何で、止めるんですか?」
真壁の両目からは、涙が零れ落ちていた。先程とは表情が変わっている。
殺意に満ちた表情ではなく、後悔をしている……そんな表情をしているような、仁科にはそう見えた。
――しかしどういうことだ?こうも人間の表情はコロコロ変わるものなのか。
考えても答えは出なかった。仁科が困惑していると、真壁は涙を拭い口を開いた。
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