第十話 最後の復讐(二)
「斎藤蓮君だね?」
仁科は真壁晴斗が通っていた高校に居る。そして目の前には斎藤蓮が怯えた表情で、こちらを振り向いた。今までの友達が殺された犯人が誰なのか、斎藤には分かっているのだろう。
「なん……ですか?」
斎藤は口を開き、小さくそう聞いてきた。仁科は警察手帳を見せて、一連の事件のことを聞くことにした。
「今までの事件のことは知っているね?今度は君が狙われるかもしれない。そこで真壁晴斗のことについて聞きたいんだけど」
仁科の問いに斎藤は周りを確認する。真壁がいないか警戒しているのだろう。
口をゆっくりと動かし、仁科の問いに答えてくれた。自分たちが今まで真壁にしてきたこと、真壁を追い詰めていたこと、斎藤はひどく後悔をしているように仁科には見えた。
「……ちょっとした憂さ晴らしで、あいつに酷いことを……今度は俺が殺される」
斎藤は精神が不安定なのか、頭を抱え仁科たちから逃げるように走り去ってしまった。
「仁科さん!追いましょう」
――桜井はいつになくやる気だ。いつもこんな感じだったらどれだけ良いんだか。
仁科と桜井の二人は、急いで斎藤の後を追い掛けた。
* * * *
「よう、斎藤蓮」
斎藤が家に入ろうとした時に、サイは呼び止めた。すっかり怯えているようだ。
「真壁……」
「少し話がある。ついて来いよ」
サイはそう言うと歩き出した。逃げるわけでもなく斎藤は俺の後を付いてきた。
サイが斎藤を連れてきた場所は、三年前に殺人事件が起こった場所だ。その事件とは、いじめを行っていた人たちが次々と殺されるというもの。この廃ビルは最初に殺人があった場所だ。
――ここで今日、斎藤蓮を殺す。そうすれば、俺の……いや、俺たちの復讐は完結する。
「こんな場所に連れてきて……俺も殺す気か?」
「いじめていた時とは態度が違うんだな?お前が小さく見えるよ」
サイが一歩斎藤の方へ歩み寄ると、斎藤は一歩下がる。
「おいおい、そんな怯えるなよ。仲良く話しをしようとしているだけだろ?」
「お前……俺を殺す気だろ?それでお前の気が済むのかよ!?」
「済むね。晴斗にとってお前たちは悪魔同然の存在だ。晴斗がどれだけ耐え忍んできたか……お前たちは分かってないだろ?だから俺が生まれた。あいつのために、俺が代わりに復讐してやるんだ」
サイの言葉を聞き、斎藤は更に後退りをする。
「何……言ってんだ?お前」
「日本語が分からないのか?俺は晴斗の心が生み出した存在だ。最初に相崎を殺してから、晴斗の心は完全に壊れた。ただでさえ、お前たちにいじめられた日々を過ごしてきたんだ。晴斗の心はとっくに限界を迎えていたんだ」
サイはそこまで言うと、ポケットにしまってあった折り畳みナイフを取り出す。ナイフの刃を出すと、篠田の血が刃先にべったりと付いていた。
ナイフを見た瞬間、斎藤の顔が青ざめる。自分の運命を悟ったのだろう。その場に力なく座り込んだ。
「ちょっと喋りすぎたな」
ボソッと呟いたサイは斎藤の前まで行くと、馬乗りになりナイフを振りかざした。
『もう……やめろ!』
斎藤の首元めがけて振り下ろされたナイフをギリギリで止める。サイの頭に声が聞こえる。
――この声は……。
「晴斗か……」
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