第二話 両眼が赤い男

 (数か月前に遡る)


 カーテンの隙間から、太陽の光が室内に入り込んだ。晴斗はその光によって目を覚まし、ベットから上半身だけを起こし大きなため息を吐く。


 ――僕の憂鬱がまた始まるのか……。


 重い身体を起こし学校へ行く準備を始める。鏡越しに写る晴斗の身体は、全身がアザだらけ。晴斗はいじめを受けている。それも今に始まったことではない。


 晴斗が初めていじめを受けたのは、高校一年生の時だ。同じクラスの生徒がいじめを受けているのを目撃してしまい、その生徒とは特別仲が良かったわけではないが、気付いたら晴斗の身体が動いていた。


 その日を境にいじめの対象が晴斗になってしまった。正義感が強いわけでもないのに、どうして助けたのかは晴斗にも分からない。高校三年になった今でもいじめが続いている。


 一度親に相談したことがある。しかし帰ってきた言葉が「お前がナヨナヨしているからだ!もっとちゃんとしろ」と怒られただけだった。


 それ以来誰にも相談できずにいる。そして今日も……。


「スットラーイク!」


 教室の扉を開けるなり、いきなり野球のボールが飛んできた。しかも硬球だ。ボールが腹部を直撃し、晴斗は腹を押さえうずくまる。


「まだ、終わりじゃね~から立てよ」


「ここじゃ、マズいだろ」


 皆笑っている。晴斗に味方は誰一人としていない。周りの連中は皆傍観者だ。もし関われば、次のいじめのターゲットが自分になってしまう。それを恐れて皆見て見ぬ振りをする。だから、晴斗を助ける人は誰もいない。


 学校が終わるまでの間、ずっと殴られ続けていた。時にはパシリとして購買まで走って買いに行かされることもあった。自分のお金で……。


 当然気に食わないことがあれば、晴斗はサンドバックになるしかない。


「もうそろそろ……限界だな」


 晴斗はそう呟いた。いつもなら家に向かうところだが、今日は違う。誰も助けてくれないのなら、こんな世の中には何の未練もないと感じた晴斗は、死に場所を求め夜の街を彷徨った。


「……死ぬって、やっぱ痛いのかな?」


 死に方を色々考える。首吊り、飛び降り、手首を切るなんてことも考えていたようだが、やはり死ぬのは恐怖を伴うようで、晴斗が雑踏で行きかう歩道で立ち尽くしていると、後ろから声を掛けられた。


 そこに立っていたのは黒ずくめの男。特に印象的なのは男の両目がキレイな赤色をしていること。


「何か悩みでもあるのかな?」


 男の人がそう言うと、口角を上げて笑った。

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