第三話 復讐の決断

 男に会った時、冷酷の二文字が頭の中に浮かび上がった。口は笑っていたが、目の奥は笑っていなかった。しかしその目に引き付けられるように、気が付くと晴斗は自身のことを語り出した。


 晴斗が話している間、男は黙って話しを聞いてくれた。ここまで話しを聞いてくれる人は今までいなかったので、途中から涙が出そうになっていた。


「大変だったね」


 全てを語り終えた後、男は優しい口調で一言そう言った。更に男は言葉を続ける。


「そこまで辛い経験をしているんだ。今度は君が彼らに復讐してやればいい」


「復讐……」


 ――この人は何を言っているんだ?復讐なんて出来るわけない。返り討ちに遭うのが関の山。今までよりももっとひどい目にあうかもしれない。


「返り討ち出来ない程に、彼らを痛めつけてあげればいい。その為に僕はここにいる」


 晴斗の心の中を読んだかのように、男の人は静かにそう言った。そして晴斗に一枚の名刺を手渡してきた。そこに書かれているのは"死神"の二文字と携帯の連絡先だった。


「決意が固まったら連絡してくるといい。」


 そう言うと男の人は、その場を立ち去った。晴斗は貰った名刺を暫くの間眺めていた。


         * * * *


 家に着きベットに横になる。ポケットから貰った名刺を眺め、今までの出来事を思い返す晴斗。


 ――いじめに遭っていて、苦しく辛い日々をずっと過ごしてきた。でも、復讐をすることには抵抗があった。僕なんかに出来るだろうか?もし失敗したら今よりもいじめがエスカレートしていまう。


 そう考えると復讐する決断が固まらない。あれこれ考えていると、気が付けば朝になっていた。


 晴斗は慌ててベットから起き上がり、学校の制服に袖を通し朝食を摂らずに学校へと向かう。


「晴斗」


 学校へと向かう道中、後ろから声を掛けられ振り向くと、いきなり蹴りが飛んできた。


「うっ……」


 蹴りがみぞおちに入り、晴斗はその場にしゃがみ込む。


――……息が出来ない。


 晴斗の前からは下品な笑い声が飛び交っている。うずくまっていて動かない晴斗の腕を掴み、人通りの少ない路地へと連れていかれた。


 篠田勝、相崎悠志、近藤謙治、そしてこの三人を束ねているのが斎藤蓮だ。


 この四人が晴斗をいじめている。篠田は斎藤とは幼馴染で仲が良い。相崎と近藤は斎藤に頭が上がらない。いわば金魚のフンみたいなところだ。


 いじめでも殴ったり蹴ったりしてくるのは、相崎と近藤の二人だ。他の二人は後ろからその光景を眺めているだけ。今回も晴斗はそう思っていた。


 晴斗は抵抗なく殴られたり蹴られたりをした後、後ろにいた斎藤が近付いてきた。右手に持っているのはライターだ。


「お前のその感じ、凄いムカつくな。いっそのこと燃えてみるか?一回見てみたかったんだよ、人が燃えてるとこ」


 斎藤は晴斗の耳元でそう話すと、持っていたライターで晴斗の制服に火を点けだした。


 晴斗は慌てて地面に転がり火を消す。その光景を見ていた斎藤が高笑いをしながら、その場を立ち去り篠田はその後を付いて行く。相崎と近藤は顔を引きつらせながら、慌てて斎藤の方へと小走りで掛けて行った。


 この時の晴斗の心には、どす黒い復讐の炎が広がっていくのを感じた。気付いたら昨日貰った名刺を取り出し、連絡を取っていた。

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