第四話 二重人格『サイ』の誕生

 晴斗は指定された喫茶店に来ていた。この喫茶店は駅から近く、コーヒーが上手いと評判でそこそこ人気があるようだ。


 席に着いてから数分後、昨日と同じ格好の男が現れた。


「やぁ」


 それだけ言うと男の人は席についてコーヒーを注文した。


「ここのコーヒーは上手くてね、よく来るんだよ」


 注文したコーヒーが届き、一口啜った後に男の人は口を開いた。


「復讐の決意は固まったかい?」


「はい」


 晴斗は短くそれだけ答えた。すると男はニッコリと微笑んだ。相変わらず目の奥は笑っていないように感じる。その笑顔を見ると、狂気じみたものを感じ背中に悪寒が走る。


「一つだけ言っておくけど、僕のことは決して口外しないように」


 晴斗の様子を気にも留めないように、男の人は話し始めた。


「名刺にも書いてあるけど、僕の名は死神。復讐を手助けする者だよ。君には今からいじめを行ってきた相手に復讐をしてもらう。段取りは全てここに書いてあるから」


 死神は晴斗に紙を手渡してきた。その紙には相手の特徴や、復讐の仕方が事細かに書かれていた。その紙から死神の方へと視線を移す。


「不安がる必要はない。ただ、一瞬でも躊躇いが生じれば復讐は失敗に終わるよ」


 晴斗の表情を見た死神が口を開いた。それ程までに、晴斗の顔は不安で満ちているのだろう。最後に死神はある条件を出した。復讐を成功させる為の条件を……。


「一、君の正体は決して悟られてはいけない。

 二、復讐は覚悟を持って徹底的にやること。躊躇すれば立場は逆転してしまう。

君ならできる。相手に君が受けた以上の苦痛を与えてやればいい。」


 最後に死神はナイフを机に置く。


「これは復讐の為に使ってくれて構わない。僕の持論だけど、相手を支配するのは痛みだと思っている。」


 死神はそれだけ言うと、立ち上がり喫茶店を後にした。晴斗は机に置かれたナイフを見つめていた。


         * * * *


 (現在)


 晴斗はどうするかを考えるが、気が動転していて頭が働かない。


 ――殺す気はなかった。ただ、少し怖い思いをさせて謝ってほしかった。ただそれだけだったのに……。


 晴斗は取り返しのつかないことをしてしまった。今この場には、頭を抱えうずくまっている晴斗と、椅子に固定された状態で血を垂れ流して絶命している相崎の二人だけ。


 ――もう……引き返せない。僕の心が壊れていくのを感じる。


「うっ……」


 強烈な吐き気を感じ、両手で口を押える。


 ――目がグルグル回って気持ち悪い。


 晴斗はその場に倒れ込んだ。薄れゆく意識の中、声が聞こえてきた。


『お前には荷が重い。これからは俺がお前の代わりに復讐してやるよ』


――――


 男は起き上がり、周囲を確認する。ある一点に視線を向ける。そこには椅子に固定され、胸からは血を垂れ流し口は半開きの状態で絶命している相崎という男がいた。


「なかなかだな」


 男はその光景を見て笑いが込み上げてきた。これからのことを考えると、楽しみでしょうがない。


 男は暫くの間、転がっている死体を眺めていた。


 





 

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