第七話 死神の陰謀(一)

「よう、待たせたな」


 サイの声に振り向いた男は、頭に血管を浮かべながらサイに近付いてきた。復讐する相手の中で、一番身体が大きい。


 篠田勝。斎藤蓮の幼馴染で仲がいいらしい。いじめの時も後ろで傍観しており、特に手を出してくるわけじゃなかったが、サイには関係ない。手を出していなくても、あの輪の中にいたのは事実だ。サイにとっては復讐する相手の一人にすぎない。


 ツカツカと歩み寄ってきた篠田は、サイの胸ぐらを掴み怒鳴った。


「てめぇ、人を呼び出しておいていい度胸じゃね~か!ぶっ殺してやろうか」


「殺されんのは俺じゃねぇ、お前の方だ」


 篠田の腕を掴み捻り上げて、足を払うと篠田は仰向けに倒れた。そのまま更に腕を捻ると、鈍い音が響き渡る。


「うわぁぁぁぁ!?」


 篠田が叫び声を上げる。


「そう叫ぶな。まだ始まったばかりなんだから……楽しもうじゃないか」


「……お前、ホントに晴斗か?雰囲気が……違いすぎだろ」


「俺のことはどうでも良い。これから楽しい復讐の始まりだ」


「復讐……だと?」


 痛みに苦痛の表情を浮かべる篠田は、それだけ言った。何故自分が復讐をされなければいけないんだという顔をしているような気がする。それに余計腹を立てるサイ。


 ――どうやらこいつらは、自分たちが今までどういうことをしてきたのか分かっていないらしい。


「じゃ、少し話でもするか? 聞きたいこともあるしな」


 サイの表情に篠田は顔を引きつらせる。


 ――そうそう、その表情が見たかったんだ。


         * * * *


「では、これで失礼します」


 仁科は応接室を後にする。ここは被害者が通っていた高校だ。そして仁科の推論は正しかった。被害者からいじめを受けていた生徒が一人いたのだ。


 その名前が真壁晴斗。そしていじめを行っていたのが、全員で四人。すでに一人亡くなっているから、残りの三人が被害に遭う可能性がある。


 考え事をしながら校門を抜けると、そこにはあの男が立っていた。


「……死神」


「やぁ、捜査は進んでいるかな? 」


 死神はそう言いながら、仁科に近付いてきた。


「お前の目的は何だ? この事件に関係してるんだろ」


 仁科がそう言うと、死神は笑った。


「三年前の事件、あれは実に素晴らしかった」


 ――やはりこいつは、あの事件を知っている。


「もう一度言うぞ?お前の目的は何だ?」


 仁科は出来るだけ落ち着いた口調で、そう死神に問い掛けた。


「三年前の事件、あの時の死神は死んでしまった。僕はね、その人のことを崇拝していたんだ」


 ――こいつは何を言ってるんだ……。


 仁科の方には見向きもせず、死神は上を見上げながら語り出した。


「君に分かるかい?いじめに耐えられなくなり、自殺を選んだ弟と兄は弟の為に復讐をする。もっとも残忍な方法でいじめ加害者を殺すんだ。いじめを無くす為に……。いじめで苦しんでいる人たちを増やさないように、弟と同じ人間が居なくなればいいと……」


「お前は……何が言いたいんだ? 」


 死神は仁科の言葉に首を横に振った。呆れた顔で仁科を見ていたが、再び口を開いた。




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