第132話
ひゅぅん! ひゅぅん! ひゅぅん! ひゅうん!
回す、回す、回す、回すーーその最中、モーティーマー・ブラザーズは頷き合う。
そろそろ、頃合いだ。
得物を廻す手を止める。
疾走を徐々に緩め、足を止める。
そうして、向き合う。
二人の眼前には、未だごうごうと上がり続ける竜巻がある。デッド・スワロゥのための、即席の牢獄が。
得物を、構え直す。それが、合図となる。
真っすぐ、跳ぶ。
迷うことなく、竜巻に向かって。
瞬間ーー
竜巻が、霧散する。
その中心に、デッド・スワロゥはいた。
驚くべきことに、真っすぐ立っている。なんという精神力だ。触れればその身をずたずたに砕く竜巻に飲み込まれ、中に鎖されていたというのに。
「「「りゃああああっッッ!!」」」
だが、かなり堪えているはずだ。モーティーマー・ブラザーズ全員が上げた鬨の声に、デッド・スワロゥは反応すらしなかったから。
「「「もらったあああああッ!!」」」
そのまま、突っ込む。
各々、得物を、手に。
ダグラスは、正面から。
セタンタは、背後から。
そしてーー
「「「デッド・スワロゥ、ここに、敗れたりっ!!!」」」
対しーー
既に全てを見切っていた【名無し】の剣士は、腕輪型アイテムストレージから、ハルバードを取り出す。
それを、逆手に持ち替える。
がんっ!
足下に、突き刺す。
跳躍。
ハルバードを支点に、垂直に跳び上がった。
その勢いで、ハルバードを引き抜く。
高く跳んだ先、中空で、目が合う。
落下してくる、得物を構えた相手と。
『……やっぱりな!』
そいつも、黄色いコートを纏ったイタチの獣人の男だった。
おそらく、モーティーマー・ブラザーズの3人目。
得物は双頭の大鎌ではなかった。
その武器は、【名無し】の剣士がかつて生きた世界にも存在していた。
確か、西欧の騎馬兵が使用する得物。
馬に騎乗からの突撃、そのまま相手を粉砕してよし、振り回して相手を殴り倒してよしーーただし、全体的に重く、長く、頑強に仕上がっているため、小回りが効かないという弱点がある、長柄の武器。
細長い円錐の形に 大きな
こいつは、あの二人が抑え込んでいるうちにとどめを刺しにかかってくる奇襲要員。おそらく、なんらかの術ーー炎や風を生み出す奇っ怪なものと同様のものと思われるそれを用い、空高く飛んで姿を隠していたのだろう。
必殺技と思われた竜巻は、実はおとりであり、突破口。
それまで姿を隠していた3人目を、唯一開いている頭上から突入させるための。
「「おおっ、サバタ!」」
「ダグラス兄者、セタンタ兄者、安心なされよ!」
サバタ、と呼ばれたモーティーマー・ブラザーズの3人目は、叫ぶ。
「我らが奥義【
モーティーマー・ブラザーズの3人目こと、サバタ・モーティーマーは、
発動させている飛行魔術の速度を上げ、落下の速度を上げた。
デッド・スワロゥに向かって、垂直一直線、ただひたすら飛ぶ。
対し、デッド・スワロゥは、足下に突き刺したハルバードを支点に、垂直に跳躍。その勢いを利用し、ハルバードを引き抜く。
そのまま、中空へ。そうすることで、兄二人の挟撃を回避する。
されど、デッド・スワロゥに翼はない。飛行魔法の類を、発動させてもいない。
はっきり言って、いい的だ。
ーー勝った!
愛用の得物であるこの
「……うん?」
対し、デッド・スワロゥは奇妙な構えをとっていた。ハルバードを、片手で、背後に担ぐような。
「無駄な足掻きを!」
サバタは、咆哮した。
強靭な肉体を誇るという【
「デッド・スワロゥ!」
なにかやろうとしてる分からないが、奴は何かを仕掛けてくるつもりだ。
穂先が触れるか触れないかの距離で、目が合う。
敬愛する英雄、【六竜将】イカズチの仇は、人喰い虎を思わせる赤みを帯びた黄金の目をしていた。その右目をまたぐように走る十字架の形の傷は、ひどく生々しく、禍々しいものに見える。
「散るがいい!」
瞬間。
ごしゅっ!
一撃が、炸裂する。
ハルバードの斧部分が自身の頭半ばまでめり込んだ音だということに、サバタが気づくことは最期までなかった。
「な……そ、ん、な!?」
されど、それ以上に受け入れられないことがあった。
サバタは、確かに見た。デッド・スワロゥが振るったハルバードの柄が、長く伸びたのを。
マジックアイテムの類ではないはずだった。じゃあ、一体、どうして!?
ルーザー=デッド・スワロゥ【新装版】 企鵝モチヲ @motiwo
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