憑きものと共に『生きる』物語
- ★★★ Excellent!!!
それぞれのキャラクターがきちんと立っていて、憑きものの説明の中でもその性格が活きている。
政の独特な価値観と性格が、憑きもの猫と、三太のキャラクター性を引き上げているように見える。それは、政自身が抱える問題(味覚や心の問題)という裏付けがあるからこそ、成り立っていると思われる。
また、憑きもの猫がかわいい。
元気いっぱいでちょっとお調子者なところもあり、コロコロと感情が移り変わる。
そうした様子も政とは対称的で、微笑ましく映る。
そして、第10話で語られる、政が味覚をなくした理由。
柳田國男は、妖怪は神が零落した姿だといったが、それに通じるものがある。
とても悲しい設定だが、だからこそ、それを受けいれることに、憑きもの猫と政にとって大きな意味が生じる。
そこで絡んでくるのが、本作のテーマの一つである『食』である。
憑きものであるが故に『食』を必要としないはずの憑きもの猫はそれを大事にする。
一方、『食』を必要とする生者であるはずの政はそれを大事にしないし、できない。
憑きものと生者を『食』の中で対比させながら、憑きもの猫と政の心の融和が徐々に図られていく。
ただのかわいい猫との優しい物語ではなく、悲しく、厳しい過去を背負う中で、1匹と1人がそれぞれどのように『生きよう』とするのか。
それを丁寧な文体で表そうとしているのが、本作である。